☆巡り逢う翼第1章☆

□第6話 暁と黄昏と―暁編―
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聞き逃しがないようラークが腰を落とす。

それから、ソファに座る夫妻とテーブルを挟んで、向かい側の彼は胡座をかく。

ヴィルヘルムは扉近くで立ち尽くす、エイミーの隣へ無言で場所を変える。

夫妻は互いから見詰め合うと、一呼吸入れて口を開いた。

夫妻の悲しそうに暗い表情は、ラークの眉を顰させる。

「エイミーさんは、時空とやらを司るんでしたっけ?」

先に声を掛けたのはエリの母だった。

優しげに問い掛ける相手へ、沈黙するエイミーは首を上下に小さく動かすだけ。

人間に慣れていないのか、自身から積極的に話し掛けようとはしない。

そんな彼女へエリの母は微笑んで返す。

「そう…だからあれを知っているのね…」

含みを残す言い方がラークは無性に引っ掛かった。

ゆったりとした口調のまま、エリの母は意を決した選択を取る。

「……今から言う事は冴ちゃんにも伝えてないし、これからも本人には絶対伝えないでね?」

何を指して話しているのか、エリには直ぐに思い当たる。

反論しようと立ち上がって声を荒げた。

「待ってお母さん!!悪魔のこいつらにそれは…!!」

物分かりが良いラークとヴィルヘルムには、エリの発言だけで予想がついた。

確認を求める様にじっとラークがエリを見詰め問う。

「以前にも瀧本の周りで悪魔が何かしたのか?」

ラークの言葉が今は感情的になっている、エリの導火線に火を点けてしまった。

何も知らなくともおかしくないと分かっていても、彼女は憤りを抑え切れない。

「『何かしたのか?』ですって…?したのかも何も、貴方と同じ悪魔が冴の両親を――!!」

「エリっ!」

凄まじい剣幕で憤怒する娘を、すかさず父が名前を呼び諭す。

言葉は途中で止めたものの、彼女は悔し涙を浮かべて父を見遣る。

それだけで、もうラークには見当がついていた。

軍ナンバーワンである自身の、承知する内容の範疇に入っていなかった事が、ラークも愕然としてショックを隠しきれない。

「エイミー、隠し事とはこれか?」

事の成り行きを見ながら、小声でヴィルヘルムがエイミーへ問い合わす。

自身が知り続け、主に明けるか迷っていた事実に、彼女は項垂れながら答えた。

「……両親を殺された同胞だと、姫君が知るのも最早時間の問題ですから……」

項垂れていた姿勢から、呟きながら彼女はゆっくり顔を上げる。

切なげにする顔を上げた先には、衝撃的新事実に激しく動揺するラークの姿。

動揺に揺らす瞳は、正直に『信じられない』と、彼の気持ちを象徴している。

「マスターは何でも背負い込み、ご自分を追い詰めがちになりやすい性格の方です」

「あぁ…」

「きっと姫君に拒絶されたら、ご自身を責め苛むでしょう…」

これ以降、兄妹はどちらからも口を開く事はなく、再び成り行きに目を向ける。

その頃ラークは懇願する様な目付きで、夫妻へと事の説明を求めていた。

「生憎彼女が言った事を、情けないが俺は知らない。だから詳細を教えてくれ」

ラークの求めにエリの母は優しく微笑み、父は頷いて柔和な目付きで細める。

「こちらもそのつもりだよ。でも、君が責任を感じる事ではないよ」

夫妻なりにラークを気遣っているのだろう。

その気持ちはラークも心の荷が軽くなり有り難いが、言葉に甘えるのは自身の公人としての自覚が許さない。

なにより、彼の直感が"知るべきだ"と強く主張していた。

髪をさらりと揺らし首を左右に振る。

「俺は王族の誇り高き悪魔だ。纏める立場の奴は下の行動を把握する責任がある」

直向きで力強い眼差しが王族の威厳を漂わす。

先程エイミーに向けた威圧からの緊迫感とはまた違った緊迫感、しかもそれとは比べものにならない程の凄まじさ。

見た事のない、ラークの表情と慣れない雰囲気に、エリ達一家は圧倒される。

「……兄様にだけ教えてあげます」

主が堅い信念を窺わせる焦げ茶色の瞳を見せる中、エイミーはぽつりと兄へ呟いた。

前触れもないながらも、ヴィルヘルムは黙って視線だけ送る。

「もしこの事件を掘り起こす様な事があれば……それはまだマスターが"彼―か―の間"にいた頃の、封じられし記憶に近付く事を示します」













第6話  fin.


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