☆巡り逢う翼第1章☆
□第7話 暁と黄昏と―黄昏編―
1ページ/18ページ
「もしこの事件を掘り起こす様な事があれば……それはまだマスターが"彼―か―の間"にいた頃の、封じられし記憶に近付く事を示します」
「シエルーーっ!!」
――PHASE7 暁と黄昏と―黄昏編―――
ラークが自身の身分を赤裸々にする今、使い魔の兄妹は二人だけで違う話題を続ける。
「……姫君の両親と主の過去が、繋がっているという事か?」
妹と小さく会話を続ける中、ヴィルヘルムは表情に出ずとも吃驚していた。
己の主がごく普通の、しかも人間の少女と接点があるなど、俄かには信じ難い話だ。
王族に関係がある者なら未だしも、まだ10代後半でしかない人間の少女と、どうすれば接点が生まれるのか想像出来ない。
当然この様な事態は、長い時の中生きるヴィルヘルムにも、初めての出来事だった。
「兄様、私達……いえ、エイミーは未来を変えても宜しいのでしょうか……?」
妹が何故不安になるのか、ヴィルヘルムは不思議に思うばかり。
「お前はどうしたい……?」
「私は…マスターの望む未来へ導きたいです」
「ならその想いに従えばいい……」
兄から妹への心に深く染み入る言葉。
ヴィルヘルムからのそれにエイミーは吃驚して、呆然としたまま立ち尽くす。
まだヴィルヘルムの胸中に謎は残された状態の頃、有り得ないと主張するエリの驚く声が彼の思考を中断させる。
「冴が王の名前を知っていた?!」
夫妻も驚くのは一緒だった様で、言葉を失ったまま再びラークが話し出すのを待つ。
「あぁ、彼奴は確かに言った…"キラ"って」
「何かの聞き間違いとかは?」
「違う。そもそも魔王様のお名前を、俺以外に知る奴自体、俺は知らない」
"俺に近いレイスでさえ知らねぇ内容だぞ?"と、眉を顰てからエリを見ていかに極秘であるかを示す。
それは同時にだからこそ、冴が魔王の名を知っていた事がおかしい事を意味する。
しかし、それとは違う疑惑が今はエリの脳裏を過ぎった。
「あんたぐらいしか知らない事なら…あんたが教えたって事はないの?」
腕を組みラークを見下ろす彼女の様は、ラークを疑っているのがよく分かる。
普段より落ち着いているのか、エリの態度にラークは苛立ちを見せない。
冷静な物言いで、自身にかけられた疑いを否定する。
「俺は話していない、話した所で瀧本の安全がとれる訳じゃねぇだろ?それどころか、現実の魔王様の反応は逆だった」
重苦しさからラークは俯いて黙る。
彼の対応からは嘘は見当たらず、エリ達に誠意を以って応えているのが、ここにいる全ての者にひしひしと伝わっていた。
故に、尚の事エリは事実に納得がいかない。
「じゃ何であの子は王の名前を知ってんのよ……」
皆の気持ちを代弁するかの如く、エリが声を詰まらせて嘆く。
誰もが今真実を求めていた。
だが神の様な存在以外、誰が今この真実に辿り着けよう。
生者が死者に問う事は出来ないのだから。
「それで?いつになったら、あんたはさっきの私の質問に答えてくれるのかしら?」
暫く気まずい空気が辺りを包んでいた時、エリが不満そうに家に入る前に問うた答えを求める。
ラークも忘れてはいなかった様で、すぐに答えを浮かべて先ずは顔に表す。