☆巡り逢う翼第1章☆

□第7話 暁と黄昏と―黄昏編―
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その事態だけは御免被りたい冴は拒否を述べようとする。

だがその直前にエイミーが口を挟む。

「誤解なさっているようですから、補足致しますが……我々と断ち切る場合、姫君には我々に関する記憶は全て、こちらで抹消させて頂きます」

衝撃的な"記憶の抹消"という台詞に、思わず冴は呆然としてしまう。

混乱をしているせいか、自然と足取りも重くなった。

「え、つまり…あたしはラークの事忘れちゃうって……こと?」

「はい。マスターのみならず陛下もレイス様含め、我々に関する記憶は全てです」

恐る恐る確認する冴に対し、エイミーは落ち着いた物腰で応対する。

それが却って冴を感情的にさせた。

「冗談じゃないわよ…記憶を弄られるのもラークと別れるのも、絶対受け入れるもんですか!!」

わなわなと高ぶる感情に震えながら、胸元を握りシワでクシャクシャにさせる。

この時聞き手に徹していたラークの心中は、素直に嬉しさで満たされていた。

だが次にエイミーが放つ現実に、一転して言葉を失う。

「ではマスターがレイス様やカレン様に、刺される瞬間がある事を、覚悟しておいて下さいませ」

「エイミー、てめ……」

「同時に逆も有り得るのだということも…」

怒りと咎めの声をあげようとするラークの横から入り、エイミーは冴の選んだ世界を伝えた。

主に、無言で冷めた流し目を送る彼女の心も、実は胸が詰まる思いである。

そして、エイミーに息を呑んでいた冴が口を開こうとした時、口許に指を当てたエイミーがそれで挟む。

「もうすぐ、陛下方のお姿がお見えになられます。姫君は何食わぬ顔をして下さい」

気配を察知したのだろう。

ふとラークと冴が前を向けば、確かにキラとクレスがゆっくりと歩いていた。

クレスのみが振り返ったと思えば駿足でラークに近寄る。

「遅かったな王子。束の間の再会は楽しめたか?」

クスクスと嘲りを込めた微笑みにラークは苛立ちを見せる。

これまで何度も目にしているが、彼としては慣れないものなのだ。

すると、冴の肩に乗っていたエイミーが、建前上の丁寧な口調で問い質す。

「クレス様。束の間の再会とはどういう意味でしょうか?」

この中で唯一冷静な人物に、陽気な物言いでクレスが質問で返した。

「王子にはもったいない才女だな。王子、あの階段…何処に向かう道だ?」

クレスの言っている意味が分からず、一度立ち止まってラークは辺りを見回す。

足を止めて自分達を待つキラの先には、螺旋状になっていると思われる階段。

辺りは僅かに薄暗く、左右の壁面には神秘的かつシンプルな彫刻の装飾。

「――おい、クレス。まさか、ここ……」

最初こそは怪訝な顔をしていたラークだったが、次第に愕然として強張らせていく。

声も様子に合わせて重たく驚きが窺える。

表情もまるで悍ましい記憶を、無理矢理掘り起こされたかの如く、恐れていて苦々しい。

壁面にはさして覚えは無かったが、目の前の螺旋階段に入る道には、酷く覚えがあった。

それも当然の筈、何故ならその先にあるのは――。

「ククク、そっ。これから王子達が向かうのは、王子が大嫌いなあの部屋さ」

――彼にとってトラウマとも言える、又しても嘗て『絶対的な絶望』を味わった最上階にあるあの部屋。

ラークの足はすっかり竦み上がり動けない。

顔色も一変して青白い。

せっかく逸らしていた傷痕を、再び刔られたのだから無理もない話だ。

「ラ、ラーク…ちょっと大丈夫?」

一方、激変したラークの様子を酷く心配する冴が恐る恐る声を掛ける。

しかし、返事が返っては来ず寧ろ、前に出た冴の声や姿さえも、耳や視界に映っていないのが明らかに窺えた。

言葉を失って立ち尽くすラークの代わりに応えたのは、クレスであり当然の様に一言余計に口を開く。

「この先にあるあんたが入るのは、そこの王子が昔…小さな頃に閉じ込められた『残酷な鳥籠』って訳」


第7話  fin.


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