☆巡り逢う翼第1章☆
□第8話 遠ざかる夜明け・闇夜の来訪
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「この先にあるあんたが入るのは、そこの王子が昔…小さな頃に閉じ込められた『残酷な鳥籠』って訳」
――PHASE8 遠ざかる夜明け・闇夜の来訪――
残酷な鳥籠とはよく皮肉ったものだと、内心呆れを募らせたエイミー。
そんな鳥籠に仕立て上げたのは、他でもないクレスの主人であるキラなのだから。
「残酷な鳥籠って…ラークがなんでそんな……訳分かんない」
幼き少年を部屋に、少年がトラウマになる程までに閉じ込めるなど、冴の生きてきた世界では虐待の外ならない。
訳分からないが故に、彼女は苛立ちが噴き出してしまいそう。
そんな彼女をクレスがぺらぺらと尚も煽る。
「今はあんなに軟弱野郎だが、4、5歳の頃には暗殺をしてた王子の手は血で真っ赤で穢れきってるからなぁ――……」
煽り途中のクレスに、突如として勢いよい平手打ちが見舞われた。
高々と響いた音は静寂を与え、ラークの意識を現実に引き戻す。
ハッと彼が顔を上げた先には、呼吸を乱して肩を上下させる冴の後ろ姿。
「ハァ…ハァ…あたし……」
華奢な体を怒りに任せて震わせる冴に一同の視線が集中する。
遠巻きに見ていたキラも、予想外の展開に驚きを隠せない。
とはいえ最も驚いていたのは、間近で彼女の行動をその目に捉えていたエイミーである。
あまりの予想外で、感情に身を任せた冴の行動に言葉が出て来ない程だ。
「さっきからラークの事バカにする、貴方なんかにあたし…絶対謝らないから!」
キッと力強い瞳でクレスを睨みつける。
対して、女性の強烈な平手打ちを見舞ったクレスは、初めこそはキョトンとしていた。
だが直ぐには、さして気にも止めずそれどころか、面白そうに笑い声を上げる。
「フハハ!鋼鈴に最も近いこのオレに、手を上げたのはシエル以来だわ!!」
確かにクレスがキラと契約を結んで以来、クレスへ手を上げたのはシエルが最初の人物。
しかも、ボーイッシュだったため、シエルに至っては平手打ちではなくグーだった。
そしてシエルが死亡して以降、クレスに手を上げた怖いもの知らずは現れなかった。
恐らく、死亡後クレスは誰かと接する時大体影武者だったということもあり、周りはキラとして接するのだから難しいとも言える。
冴の方はというと一応怒りを返されると思っていただけに、見当違いで奇怪な反応に拍子抜けしてしまう。
「ククク、あんた面白いな。初めよりちょっとは気に入った」
最後に小さく冴の耳元でゆっくり挑発的に囁いて、踵を返して主人の待つ許へと戻っていく。
離れていくクレスを『ついて来い』という合図だとラークとエイミーは認識する。
完全なる今の敵地に逃げ道は存在しない。
彼等に選択できるのは前進するのみ。
「瀧本…必ず助けに来るから……俺を信じて待っていてくれ」
選択の余地すらなく逃れようのない現状から、気を紛らわせたくてラークは冴の手を握りしめる。
多少冴もビックリしたが、込み上げて来る嬉しさを素直に表す。
「うん、知ってるよ。だって今回もこうして来てくれたもの」
たったこれだけの応えに、ラークの想いは救われ溢れそうになった。
そして無論諦めた訳ではなく、今伝えられる想いを一言一言心を込めて呟く。
「サンキュー。俺も諦めねぇから、瀧本も絶対ぇ諦めんな?」
「当然。元々あたし、諦め悪い方だしね」
お互い手を離さぬまま、再度歩き出して螺旋階段を回る様に昇る。
ループしているみたいな、繰り返される風景は昇っているのか分からなくさせた。
暫く歩き続け漸く一つの扉に行き着き、そこが目的地なのだと主張する。
ここにも外に通じるのもこの一本道しかなく、益々入る者に淡い期待を抱かせない。
到着して足を止めたラークは冴を背後に寄せてから、クレスとキラにある条件を突き付けた。