☆巡り逢う翼第1章☆

□第8話 遠ざかる夜明け・闇夜の来訪
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真冬の朝日は冷たい空気の中で、心地良い温もりを与えてくれる。

更にこれまた程よい心地良さを持ったベッドで冴は寝返りを打つ。

少々粗末ではあるものの、不快には感じさせない程度の掛け布団。

涼しげな浅葱色のシーツに包まれた、布団がもぞもぞと鈍く動く。

「ん〜……」

小さくくぐもった声を出す冴が、ゆっくりと気怠そうに瞼を上げた。

見慣れぬ景色、僅かに薄暗くグレーを基調とした壁面で整えられた、殺風景な空間。

明らかに自室でない部屋に自分がいる事は、先日の出来事が現実であった事を如実に語っていた。

暫くあたりを見渡してから、まだ残る眠気で重たい体を起こす。

ふとここで、自分がバスローブ姿で眠っていたことに気付く。

うっすら頬を赤らめて、昨晩自身の着ていた服を置いた部屋へ小走りに急いだ。

自身の服を見付けたものの、隣にあった初めて見る服に目が止まる。

「…ワン、ピース……?」

丁寧に畳まれていたのは、シンプルなデザインのワンピース。

冴が持ち上げ広げれば、藤紫色にも似た薄めの紫の服がふわりと揺れ動く。

「うわぁ……なんて触り心地の良い生地なんだろぉ……」

上質で柔らかい布地に思わず感激してしまう。

しばし洋服に見取れていたが、ふとはらりと落ちたメモに目が行く。

足元に落ちた紙切れを拾い、綺麗なバランスを持った文字を読み上げる。

「"手配、する…だから、毎日…"って…これ、まさか英語…?」

少々不満気に眉を潜めた冴がメモに目を凝らした。

見れば見る程それは、すらすらとした筆記体で書かれた英文。

英語は得意である方の冴だが、流石に見慣れない筆記体では中々読めない。

そこへ、グッドタイミングでエイミーが姿を現す。

眠気に目を擦りふわふわと飛びながら欠伸をした。

「瀧本様如何なされました?」

最早定位置の如く冴の肩に座る。

冴の方も抵抗は全く無いようで、当たり前の様に受け入れる。

紙切れに視線を集中させる彼女に合わせて、エイミーの視線も自然とそこへ向かう。

文章を流れる様に進めて行けば、次第に彼女は驚きを見せていった。

「これは……陛下の書かれたメモです」

「えっ、あの人の!?何て書いてあるの?」

内心エイミーはどうやって、自身に気付かれずこれを置けたのか、不思議でならない。

普段から――ましてやこの様な警戒すべき状況で、自分が目を覚まさない筈がないからだ。

色々謎な点が浮かび上がるが、一先ずエイミーはメモの文章を音読していく。

「"着替えくらい手配する。だから同じ服を毎日着るな"……とのことだそうです」

どうやら冴の行動は予測済みだったようで、それで彼が替えの服を用意したらしい。

「流石大人というか何と言うか……手回しが良いのね」

「私は良すぎて裏がありそうで、却って不気味過ぎるくらいです」

そう言ってエイミーが、険しい顔付きでメモを睨みつける。

鋭い思考感覚を持つキラの、人質にしては手厚い対応にエイミーは警戒心を強める。

反対に冴は素直に最初に比べキラへ好感を持つ。

だがそのために、益々"キラ"という人物がどういうものなのか分からなくなった。

「瀧本様やマスターに関して、陛下は理性的な時と感情的な時があるので、普段より一段と予測しにくいのです」

"マスターへの時の方が冷めきっている分まだ楽です"と付け加えて、突如エイミーが不満を漏らす。

昨晩と同じ様にエイミーはふわふわと窓へと近付く。

その隙に冴はバスローブを脱ぎ、あのワンピースへと着替えた。

暫くして彼女もエイミーの後を追う様に窓辺へ歩く。

何気なくエイミーの隣に冴が立ち止まれば、驚いた様子でエイミーが目を見開いた。

逆に何をそんなに驚くのか、冴からすればさっぱりわからない。

今迄契約する以前は特異な能力柄か、周囲の前を行く事が多かった。

兄のヴィルヘルムがラークと契約してからは、勢いで契約したエイミーもラークの後ろを歩いた。

こうして誰かが隣に、しかも当たり前の様に立たれる事がなかった。

そのせいか、自然体に"エイミー"という一人として接する冴の対応は、エイミーにとってとても新鮮である。

沈黙していたエイミーが、小さく嬉しそうに口許を綻ばす。

息を吐いた微笑みは冴の首を傾げさせた。

「瀧本様……貴女様のお命、この私エイミー・アシュリアにお預け頂けませんか?」




第8話  fin.


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