☆巡り逢う翼第1章☆
□第9話 触れ合う心
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「瀧本様は先ずカレン様とはなるべく自然体で接して下さい」
一度ふわりと冴の周りを飛んでから、静かに彼女の肩に腰を掛ける。
ただ、何故か冴と視線は合わせない。
「さすれば、向こうの困惑を誘えます。そこが相手が最初に見せる隙です」
黙したまま緊張した面持ちで冴は頷く。
それを合図に、視界で確認したエイミーは話を続けた。
「そうしましたら、カレン様と信頼関係を築けたら……と思っております」
どこか自信が無いのか、途中言い淀んでしまう。
「どうかしたの?」
様子の異変に気付き、心配そうにエイミーの顔を覗き込む。
そこでやっと二人は視線が合う。
だが申し訳なさそうにして、エイミーが直ぐに逸らしてしまった。
彼女の対応は冴には益々不思議でならない。
「1つ難点がございまして…カレン様の属する部隊は、国内の暗殺も熟す諜報機関です」
"当然、こちらの方が圧倒的に不利です"と、付け足した顔つきは険しさが一層増す。
「諜報……要は当然向こうも、何か狙って探ってくる…って事?」
冴は学校で初めてカレンと出会った瞬間を思い出す。
その表情は、当時の張り詰めた緊張感と殺気で、自然と強張っていく。
ごく普通の反応にエイミーは少しホッとして、小さく息を吐いた。
「お話が早くて助かります。必ずや、カレン様はお命以外の何かを探るでしょう」
「命以外……?」
予想外の推測に冴も思わずオウム返しをしてしまう。
一方のエイミーは問われると予測していたのか、驚く事もなく淡々と答え始めた。
「陛下は有言実行なされる方です。瀧本様のお命が保証されたここでは、恐らくカレン様といえども殺せない筈です」
冴がエイミーを見て息を呑んだ所で、ノック音が来訪者を知らせる。
音のリズムはやや慣れない雰囲気を感じさせる。
だが彼女達は一気に張り詰めた緊張感に包まれた。
「――食料だ。さっさと片付けろ」
「ま、魔王陛下……!?」
返事を待たずに入り込んできたのは、変わらぬ淡々とした態度のキラだった。
閣議等多くの仕事があるはずの、最高責任者の来訪にエイミーは酷く驚いた。
冴に至っては驚きのあまり言葉も出て来ないくらい。
しかも片手には、調理された食事が乗せられたトレー。
流石のエイミーも、魔王直々に食事を持ってくるとは予想外だった。
消去法からいくと、影武者でもあるクレスは目撃された時噂が立つ恐れがあるうえ、やや癖のある性格な為避けると予測していた。
しかし、同性にして世話役予定のカレンは重傷で病院。
そのため自然と人物は限られ、キラとしては避けたくともクラットしかないと見ていた。
だが、実際に訪れたのは兄のクラットではない。
こともあろうに、影武者も選ばずクラットの弟であり一国の王であるキラ本人。
故にこれでエイミーの中で一つ確信が持てた。
キラがクラットからも冴を遠ざけている事。
屈折した性格のクレスに比べ、冷静なクラットなら冴がシエルの過去に触れるリスクは低い。
それでも、過去の鍵を握るクラットと彼女との接触は、キラとしてはあまり好ましいものではないという思考に至った。
「恐れながら陛下。何故―なにゆえ―陛下が、食事をお持ちに…?」
トレーを室内に一つだけあるデスクの上に置くと、エイミーを無視しキラは黙って冴に近付いていく。
対する冴は大半を驚きで占めている心中で、昨夜のクラットの言葉がふと頭を過ぎる。
「不器用なキラは俺程上手く優しく出来ない。だけど……今は彼奴も苦しんでいるのを、どうか分かってやって欲しい」