☆巡り逢う翼第1章☆
□第10話 孤独の王
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「何も知らねえ女が……しゃしゃってんじゃねーよ!」
「しゃ…しゃしゃってやるわよいくらでも!!貴方この国の王様なんでしょう!?」
一度は気圧されるも、負けじと冴は言い返す。
「王様なら王様らしく、大人しくお医者様呼んでもらいなさいよ!!大変な病気だったらどうすんの!?」
「ケホッ、ケホッ…それが何も知らねえくせに余計なお世話だっつーんだよ…!!」
次第と喧嘩腰になっていく二人に、思わず静観するエイミーが溜息を零す。
同時にこうしてキラが誰かと言い争う、久々の光景に若干安堵感を抱く。
「とにかく……俺のことは……!!」
感情を高ぶらせたせいだろうか。
再びキラの視界はぐらりと揺らいで体のバランスを崩した。
「キラさん!!」
咄嗟に冴が両手を差し出し、ベッドから落ちるのなんとか防ぐ。
だがやはり大の大人は重たい。
「くっ…」
「はあ、はあ……退―ど―け……」
病を移さぬ為キラが煩わしそうにして突き放そうとする。
乱れた吐息はすっかり熱を帯びている。
だが強い寒気が体を震わせ、朦朧とする意識では上手く力が入らない。
結局力尽きずるりと冴に体を預けてしまう。
キラの鼻を掠めるのは、しつこくない甘さの香水。
香りは荒んだ彼の心に、束の間の穏やかな安らぎを与えてくれる。
鎖骨辺りに埋めたキラの額は平熱が低い冴には、まるでホッカイロを当てられている感じだ。
「瀧本様…ここは陛下に従いましょう。陛下を横に出来ますか?」
戸惑う冴を見兼ねたエイミーがそっと助け舟を出す。
「横にはなんとか出来るけど……でも誰にも言わなくて、ホントに良いの?」
心配で堪らない冴にはまだ躊躇いが。
それをエイミーが落ち着いて宥める。
「王とは臣下との信頼も重要ですが、同時に身を護る為に謀反を事前に、摘まなければならないものなのですよ」
「む、ほん…?ごめん、流石にちょっと難しいかも……」
キラを横にしながら、丁寧な言葉遣いに首を捻った。
「謀―たばか―る……裏切り……とでも申しましょうか?」
「そんな……」
「陛下もマスター同様、周りからは恐れられておられます。残念ながら、これが陛下を取り巻く現実なのです」
「この人に……仲間はいないのかな?」
ベッドに横たわり布団を掛けられ、今のキラは静かな寝息を立てている。
とはいえ、表情はどことなく苦しそう。
彼の白い手を両手で包み込んだ冴は、自身に今出来る事を必死に探す。
「そうだ、浴室のタオルで…」
はっと思い付いた冴が小走りで浴室へ向かう。
そこで、蛇口から水を出して存在するタオルで最も小さいタオルを濡らす。
また小走りに戻り、前髪を分けたら優しく濡れタオルを乗せた。
額が冷やされ幾分楽になったのか、先よりキラの表情が和らいだ。
それを見たエイミーが小さく笑みを見せる。
「ふふふ、この光景をマスターが見たら、さぞや妬かれるでしょうね」
「えっ?なんでラークが焼き餅?」
再びキラの手を握りながら冴はエイミーの方へと振り向く。
だが口元に孤を描くだけで答えてくれない。
時はどんどん流れ気付けば宵闇が訪れていた。
エイミーが気を利かせようと黙って蝋燭を持ち上げる。
「ありがとう、エイミーさん。でも危ないからあたしがやるよ」
朗笑で冴は火を点ける事を申し出る。
「申し訳ございません。これが終わりましたら、瀧本様もお休み下さいませ」
眉尻を下げたエイミーが一礼後顔を上げる。