☆巡り逢う翼第1章☆

□第15話 魔ならざる鬼
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得体の知れない、不気味さを醸し出しながら彼は唇を歪んだ曲線で結ぶ。

「お前等、外に出るぞ」

突然告げられた指示にクラットは非常に解せない反応を見せる。

しかし、そそくさと彼等が窓から飛び出すものだから、反論の機会を失ってしまう。

すると直後に、物凄いスピードで"彼"が王達の後を追い掛けた。

"彼"の無言で振り翳す、やや厚みのある刀が薄気味悪い黒光りを俄かに放つ。

既に察知していたようで、キラの後に続いていたクレスが真っ先に動き出す。

「させねーっての!」

狂喜する様を見せるクレスは、体を反転させると同時に"彼"の攻撃を、ありふれた剣1本で受け止める。

「そらそらあっ!漸くお出ましなんだろぉっ!?」

弾みをつけて跳ね返された"彼"は数歩よろめく。

その隙を突いてクレスは幾度となく剣戟を繰り広げた。

絶えず行われる攻撃に"彼"も防戦一方となってしまう。

だがそこにあった表情は苦痛ではなく、それさえも座興の一つに過ぎない、とでも言いたげに微笑んでいる。

「久々に表の肉体使っておいて…この程度か!?なぁ、闇天に侍りし破壊者…ルース!」

"光"と意味する呼び名に、"彼"は皮肉めいた嘲笑を浮かべる。

やっとの事で上げた顔は、ラークの顔そのままでキラ達を蔑み嘲笑っていた。

「……光と闇は対を成すもの。表が闇なら裏のオレ様は光ってか?はっ、茶番だな」

「クレス!!離れろっ!!!」

普段では考えられない主の叫び声に、思わずギョッとして振り返る。

丁度そこへ玄関から外に出たクラットが現場に居合わせた。

慌ててキラがクレスの前に出た、次の瞬間先程迄いた場所にルースの姿が無い。

代わりに、キラ達のすぐ後ろに刀を構えて佇んでいた。

「……ん?おっかしいな」

「くぁっ…!」

始めこそ見下した微笑みでいたが、確信していた感触に違和感があったのか訝る。

それとほぼ同時に体中、軽い切り傷に見舞われたキラが片膝を着く。

「鋼鈴!!」

クレスが慌てて駆け寄った。

あちこち服は破れ、傷痕に沿ってうっすらと血が滲んでさえいる。

どうやらルースという男の感覚では、これが跡形もなく切り刻まれるつもりだったらしい。

「さして、加減しちゃいないんだがなぁ〜」

起きる筈の結果でない事に疑わしく思いながら、振り返ってキラとクレスを見下ろす。

何故キラが、軽傷で済んだのかというと間に割って行った際、ほぼ同時に防御魔法を展開したからである。

でなければルースとやらの予測通り、今頃木っ端微塵に切り刻まれていた。

とはいえ安堵するのも束の間で、何歩か足を進めた彼が近付いて来る。

「下僕が守るべき主人に庇われるたぁ…屈辱通り越して無様なもんダナ」

おどけた口振りで侮蔑に口元を歪ます。

簡単な素振りを数度繰り返してから、最後に刃先を見上げるクレスの額へと向ける。

「どうだ?為す術もなく主を切り刻まれた感想は…」

くすくすと卑しく笑う彼へ、負けず劣らずの嘲笑でクレスが返す。

それがルースには奇怪であり不快でならない。

「切り刻む?寝言ホザいてんじゃねぇよ。オレのご主人サマは見ての通り…ピンピンだぜ?」

挑発に乗ったルースが素早く刀を振り翳す。

そこを遅れぬ速さで駆け出したクラットが庇い立つ。

「インヴィジブル・エッジ!」

名前を唱えたと重なってクラットがルースの、頭上から振り下ろされる攻撃を受け止めた。

魔法の名称通り不可視の武器で刀を防ぐ。

だが、クラットは思っていた以上に苦戦していた。

実弟のキラに引けを取らない程の馬鹿力。
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