☆巡り逢う翼第1章☆
□第20話 白き悪魔
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翌朝ラークは転入生という事で、色々な手続きを済ませるべく、レイスと共に先んじて学校へと向かっていた。
レイスからすればラーク襲撃事件以来の訪れである。
「どうせガキなお前に言ってもしゃあねぇんだがよ…近頃抑えが効かねぇんだよな」
「……はぁ、一体何の話をしているんだい?しかも、相も変わらず君は失礼だなぁ」
慣れない人間界の携帯電話に、四苦八苦しながらも苦笑いを浮かべて指摘する。
これは先日瑛志と柚希が新たに契約して二人に渡したのだ。
ところが次にレイスがちらりと友を見れば、どこか浮かない顔をしているではないか。
「君ってさ…昔から心配性というか世話焼きというか……過保護な所あるよね」
苦笑混じりだが嬉しそうな笑い声を零す。
対するラークは回りくどい言い方に眉を顰めた。
親友の反応も織り込み済みなのか気分を害する様子もなく続ける。
「考えてもみれば簡単だ。つまり君は彼女と深い関わりをもっと交わしたいという欲求が、予想以上に強くて困ってる…でしょ?」
大概上手い具合に、包み込んだ表現が出来るレイスをラークは昔からいつも羨ましく思う。
悔しそうにも照れくさそうにもした溜息で肯定を表す。
「それは男に生まれた以上仕方ないよ。忍耐も1つの愛情表現だと思えば良い」
「お前っ…冷静過ぎてなんかムカつく。さらっと簡単に言ってくれるよな」
長い溜息を吐いた後俯いていた顔を上げる。
暫くすればやや距離のあるあの坂道は終わり正門に辿り着く。
ふと彼等は足を止めて、狭過ぎず広過ぎない校舎を見詰める。
まだ残暑は厳しく蝉が儚い命を以て必死に花を咲かせていた。
「…潜入なんて何年振りって感じなんじゃねぇか?隊長さんよ?」
挑発的な微笑を浮かべてレイスを焚き付ける。
これにレイスは楽しげに微笑んで、皮肉めいた言葉で返して歩き出す。
「私の隣には向かう所敵無しの隊長様がおられますから、不安は何もありませんよ」
面白そうに笑いながら歩く、親友の余裕は頼もしいが些か気に食わない。
まるでからかいをさらりと躱された気分だ。
だがレイスの精神的な成長はラークも喜ばしい。
あれから暫くすると続々と在学生が通学に訪れる。
それぞれ、彼等彼女等なりに夏休みと青春を謳歌したのだろう。
日焼けした者もいれば未だに髪の色が戻せていない者もいた。
「あれ?瀧本さんってば肌真っ白〜!」
年相応に夏休みを謳歌出来たのだろう。
こんがりと小麦色に肌を焼いた、クラスメートの少女が話し掛ける。
あどけない顔付きで屈託なく笑う。
「そう?今年はエリのおばさん達と一緒に長野に行ったりしてたからかな」
「避暑の旅かぁ。それも良いなぁ〜!」
控えめな笑みで答えながら、どこから思い付いたのかも分からない作り話を上げた。
すらすらと自然体に会話する友の姿に、傍らにいたエリも内心脱帽である。
そこへ突如海穂が新たな話題を持ち込んでやってきた。
「面白い転入生来たぞ!今裏門へ物珍しさに呼び出し食らってたんだけど…冴?」
新しい玩具を見付けた子供の様に、はしゃぐ海穂とは対照的に冴は青ざめていく。
暫くしてその原因がエリにも掴めた。
海穂の口から出た"転入生"という台詞である。
「そ、それで海穂…転入生はどうしたの?」
取り敢えず落ち着きを取り戻そうと、笑みを心掛けるが明らかにぎこちない。
海穂も冴の反応を訝しげに見詰めるが一先ず問いに答える。
「それがさ、黒髪の男子の態度が気に食わなかったのか…危うく喧嘩になる所だったよ」
嫌な予感が冴の脳裏を掠める。
漠然とした不安は時限装置の様な風船の如く膨らんでいく。
それらを"黒髪の男子"という特徴が更に煽った。