☆巡り逢う翼第1章☆

□第20話 白き悪魔
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丁度冴が気掛かりな事を尋ねようとしたその時海穂が答えた。

「なんと、そこにあいつがいたんだよ…!ほら、夏休みエリの家にいた留学生!」

レイスを指し示す人物像を耳にすると二人は一様に安堵する。

彼はラークの感情を抑えられる数少ない男だからだ。

対して海穂からすれば、彼女達の反応が若干不思議なものである。

「あの留学生そんなに頼りなの?ぱっと見、ひょろっとしてると思うけどなぁ…」

「あ、いや、話してみるとそれが意外とそうでもないのよ」

随分な言われようにエリが苦笑したまま返す。

そこへ男性の教師がやってきて、彼女等も仕方なく各々の座席へと着く。

教員は合わせて話題の彼等を連れて来た。

すると教室は先とは違う雰囲気を作り出してざわめき立つ。

「こらこら、あんまり五月蝿いと説明してやんないぞー?」

40代位に見える短髪な教員は気さくな雰囲気で生徒達をからかう。

どうやらこの親しみやすい態度は好評らしい。

誰も逆らわずさっきのが嘘みたいに教室が静まり返った。

海穂が"例の留学生"と称した金髪の少年――レイスは、朗らかでいて静かに微笑む。

一方の"黒髪の男子"――ラークといえば、実に面倒臭そうであり怠そうである。

魔界での幼い時とは明らかに違う、好奇な視線がラークには苛立たしくて堪らない。

しかも、幾人もの女生徒からはひそひそとしながらも、黄色い声が漏れ出ている。

それが余計に彼を苛つかせた。

彼の心情等知る由もない、冴の表情はだんだんと曇っていく。

「あー、本来ならもう一人いるのだが――」

「すんません、遅れました!」

随分とやる気のない教員の口調と、慌ただしく開かれた扉の音が重なる。

生徒一同の視線が集められる。

そこには所々ワックスにて立たせた茶髪の少年がいた。

「壬生龍聖、本日からここに越してきました!宜しく頼んます!」

威勢良いアルト調の声音がシンと静まっている教室に響く。

室内の生徒皆、きょとんとしているという方が正しいかもしれない。

にこにこしたままのレイスが、腹の内では黒い事を考えている等、ラークを除けば恐らく誰も知る由もないだろう。

隣に立つ友の恐ろしさに内心彼の肝は潰されそうな思いだ。

「冴っ…!」

昼休みともなり冴達3人は屋上で昼食をとる。

冴とエリで互いに弁当のおかずを交換する中、海穂は弁当と箸を手に血相を変えて尋ねる。

「あの壬生っていう転入生…うち知ってる」

「えっ!?海穂の知り合いって事?!」

「や、その、違うんだ!実は……」

夏休みのある日、夕立に遭った出来事を親友達に話す。

些かコメディ色のある内容にエリが必死に笑いを堪える。

「ぷっ、ぷぷ…なんてドラマチック…」

「こらこら、言葉と本音が違ってるでしょ」

海穂も不満げに眉を顰るが、自分でも同じ心境の部分もある為ここは我慢する。

一方の冴は自分が魔界にいた頃、そんな事が起きていたのかと驚く。

延いては今迄にはなかった、友人との距離感に寂しさを抱かずにはいられない。

「でも…この時期に転入生だと、まるで文化祭が歓迎会みたい」

寂しさを紛らわす様に笑顔を心掛けた。






















「まだ数時間しかいないのに、もう頭の中が平和呆けしてしまいそうだよっ…」

一方のラークとレイスは二人、少女達とは別棟の屋上にてのびのびとしていた。

食後の一服と言いたげにコーヒーを口に運ぶ。

「はぁっ…んな事より、あれからどうだ?」

一口飲むと同意めいた溜息を吐いたラークが問い掛ける。

深刻そうな表情が問題の重要性を物語っていた。

「ん〜…それがさ、頻度は減ったよ。一時撤退とでもいうように」

「は?これからが本格的な行動に入るんじゃねぇのかよ?」

困った様子で答えたレイスへ困惑した顔付きのラークが更に問う。

だがその答えを友は持ち合わせていないらしい。

苦笑いを浮かべながら首を左右に振った。

「僕が知りたいくらいだ。もし逆に大詰めだったならば、事は一刻を争うからね」
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