☆巡り逢う翼第1章☆

□第20話 白き悪魔
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「こんの大バカ野郎、魔力をギリギリ迄磨り減らしやがって…!!」

「えっ!?でも確か、そんな事をしたら…」

以前居合わせた似た出来事を思い出す。

冴を救出しようとしたラークはレイスとの戦闘で瀕死の重傷を負う。

閉じ込められた空間を彷徨う中再び現れたレイスが無理してラークの怪我を治したのだ。

あの時もラークは命の危険性をほのめかしながら叱声を飛ばしていた。

「あぁ、使い過ぎれば回復が追い付けねぇでお陀仏だっ…!!」

騒然とする二人の遣り取りを見ていたエリも呆然として見る見るうちに青ざめる。

言葉も失い自身のとった愚行はそれこそ呪いたい。

「今は一刻も早く此奴を治療させねぇと、このまんまじゃ手遅れになっちまう!」

そう言うが早いか、ラークは急いでどこかへ駆け出してしまう。

「あのオレンジ頭っ…」

悔しげに体を震わせるエリを見て心配そうに顔を覗く。

そこには、ぽろぽろと大粒の涙を零す親友がいた。

「あいつ…彼を本当に思い遣るなら、渡した物を叩き付けろって言ったのに…!!」

「エリ……」

「もし彼に何かあったらどうしよう…!?」

異空間が崩れていく際にも感じた直感的な不安。

今やそれは大きく膨らんで恐怖すら取り巻いている。

「きっと大丈夫。カレンさんは弟思いの優しいお姉さんだから……きっと守ってくれるよ」

静かに優しく抱き締めてしゃくりなく彼女を包み込む。

そんな温かい想いにエリも今は只甘える。

あれから冴は人目を忍んで何とか隠れていた部屋にまで辿り着く。

それから暫くして、様子を見に行方を探していたクレスが変装をして現れた。

余程念の押された釘を刺されたのだろう。

ふざける素振りを全く見せず、不気味な程に普通の態度で応えるではないか。

違和感が拭えないも他に頼れる相手のいない冴は渋々従う。

「我が王より明日夜、貴様等と王子達四人を人間界に送還する」

本来ラークに宛がわれていた部屋に到着するや早々に口を開く。

鬘なのか時折茶色い短髪を気にして整える。

空色の瞳が残念そうに冴達を捉えた。

「お前等は面白いんだがな〜。主の厳命とあっちゃあ仕方ない」

「ちょっ…ちょっと待って下さい!レイスの様子がおかしいのにそんな…!!」

捜索中に情報を得たのか想定済みなのか、特に驚く素振りもなく滔々と答える。

「あー、それ。どうせ魔力の過剰消費だろ?直前迄点滴してりゃ死にはしねーよ」

「……それ、マジな話?」

小さな希望にも思える内容にしゃくりあげていたエリが顔を上げる。

頬には涙が伝った痕がくっきりと残されている。

それを興味深そうにクレスが見詰めた。

「元々迅速且つ適切に処置すりゃ何でもない。只治る迄は嘸や辛く苦しいだろうよ」

「クレスさん…それ、悪い冗談じゃないですよね?」

日頃のおどけた態度が信憑性に疑いを持たせる。

そんな冴に心底残念そうにして返す。

「気付いてるだろーが、生憎今回は鋼鈴に口煩く言われてんよ。安心しな、嘘じゃねー」

実につまらなさそうに話す様からは確かに嘘は見受けられない。

どうやら彼の情報に偽りや他意はないらしい。

「教えてくれてありがとうございます」

冴が微笑んで礼を述べると、居心地悪くなったのか鼻先を鳴らすと早々に立ち去る。

ラークが不満気な表情で戻ってきたのはそれから数時間後の事だった。
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