☆巡り逢う翼第1章☆

□第20話 白き悪魔
3ページ/12ページ


橙天立ち会いの下予定通りに四人は人間界へと送致される。

レイスは予定時刻の限界迄、点滴含めた投薬治療を受けていた為ラークに担がれて送られた。

無事人間界に到着した所で漸くラークはある異変に気付く。

「ラーク?」

寝静まった住宅地で降ろされ、溜息混じりで電柱に記された住所を確かめる。

それからも呆然としたまま動かない事を不思議に思った冴が呼び掛ける。

大分時間差を生じさせてからその答えは得られた。

「エイミーが俺の所に戻ってる。なんで今の今迄気が付かなかったんだ…!?」

愕然たる面持ちでざわつく胸を静めようとするも叶わない。

魔界とは余りにも違い過ぎる気温差が更にラークの心拍数を速める。

じめじめとした残暑は額から嫌な汗を滴らせる。

「なら尚更、早く家に戻ろう?レイスもこの暑さは辛い筈よ」

真冬の世界から真夏の世界に移されたのだ。

冴の意見も頷けるものでありここはエリの家へ足早に向かう。

帰れば思っていた通りの反応が返ってくる。

始めこそは深夜という事もあり足音を忍ばせていた。

だが物音とレイスの呻き声が家の中の雰囲気を変える。

「ラーク君!大変なんだ…!!」

ただならぬ気配に父の瑛志が真っ先に駆け付ける。

愛娘と旧友の娘の無事に安堵しつつラークには焦りを見せた。

彼の動揺が理解出来ているらしく、ラークも落ち着き払った様子で返す。

「遅れてすまない、エイミーの異変はいつだ?実は俺はさっき気付いたばかりなんだ」

情報収集に努め、正確な事態の把握と的確な判断を下そうとする。

そこへ疲労の色を濃くしたヴィルヘルムが2階より現れる。

「我が主…なのですね?」

何かを見極める目つきでじっと見詰める。

日頃結ばれている、真っ直ぐな群青色の長髪は解けていた。

「……お前等は、俺の中の彼奴を知っていたのか?」

一瞬予想だにしなかった質問に驚きを隠せない。

只直ぐにいつもの欠けた表情に戻る。

「恐れながら、契約の際我が主の深淵より更なる奥深く…小さな淀みがございました」

「つまり俺の心の闇奥深くに彼奴はいたのか?」

「彼の男は存在の発覚を恐れておりましたので、我々は原則黙認する事としたのです」

話が全く飲み込めない瑛志は戸惑いの念を禁じ得ない。

困惑した表情でラークとヴィルヘルムの顔を交互に見遣る。

対して冴達は静観を続けラーク達も構わず続ける。

「エイミーは一週間程前にて主の許に戻りました」

「一週間前…あたし達がレイスに魔界へ連れて行ってもらった3日後ね」

「いやっ……!」

冴が逆算しながら話す中苦しげな声が割り込んで来た。

こんな辛そうに喋る者は1人しかいない。

「レイスっ!無茶すんなって!」

またもや無理をしようとする親友―とも―を苛立たしげな声で窘める。

慌てて振り返りソファーから起き上がろうとする彼を力尽くで押し付けた。

「大人しくしてろって!ここには人間界だ。特効薬も何もねぇんだぞ」

「分かってる…。でも……僕、魔王様と騎士を警戒して…通常で転移、したんだ…」

やや相手を責めるラークの口調に対してレイスの声はぼそぼそとしている。

未だ体調が芳しくないのがよく分かる。

「そうか…お前が言いたい事は分かった。だから今は大人しくしてろよな」

二人の遣り取りが上手く聞き取れない他の者達が不安気な視線を向ける。

そこへ一転して穏やかな口振りとなったラークが踵を返す。

「ヴィル。レイスが言うには通常転移を使ったらしいぜ」

話題を戻したのだと判断したヴィルヘルムは主が言わんとする事実を淡々を述べる。

「つまりは…エイミーの異変は姫様方が魔界にご到着された直後、という事ですか……」

彼が長めの息を吐いている間にラークは冴達へ簡単に説明をする。

これを聞いたエリがハッとして思い出す。

「それならレイスが海へ行って直ぐに、ルースが私達と接触してきた時と一致するわ…!」

「ルースってのは魔王様が名付けられたもう一人の俺の名だ。成程、だからか……」

ラークとヴィルヘルムの中で点と点が線となって繋ぎ合わされる。

恐らくはルースが表に出て来て、動き出したが為に敏感なエイミーは主との繋がりの異変に、耐えきれなかったのだろう。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ