☆巡り逢う翼第1章☆

□第3話 愛憎、そして……
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「何…?魔界を恐怖に陥れた君が、カッコつけてんの?」

「恐…怖……?」

レイスの言葉が解せず、冴は不安気な表情でラークを見遣った。

だがラークは俯き小声で、何かを呟いていた。

レイスも彼が反応しないのに気付き問い掛けようとするが、彼の呟きは炎系最上級魔法の、呪文を詠唱している事に気付く。

冴はレイスの焦る表情に疑問を感じていた。

「ダーク…!」

…――万物の炎を司りし者よ

 我と汝の誓約により

 その力全てを以て

 地獄の業火で我等を立ち塞がんとする者

 その一切を焼き払い給え

 我に流れし真紅の焔

 汝に更なる力を与えん…!

「フレア…!!」

ラークが唱えると、レイスの周囲を囲み地面から炎が一気に噴き出した。

しかし、レイスは噴き出す直前に防御魔法を発動させながら、灼熱の炎から抜け出していた。

その隙にまず冴を上げさせ、手を貸されつつ自身も這い上がる。

「ちっ…やっぱり彼奴の素早さには、使える魔法が限定されるか…」

ここからどうするかラークが思考していると、冴が服の裾を軽く数回引っ張る。

「逃げれたりとか…無理かな…?」

彼女は心底不安気な視線を彼に向けた。

彼の怪我は自身のせいだと、冴は自責の念にかられていたのだ。

冴の心境に気付き、小さく溜息を吐く。

「逃げるのは癪だが……チャンスは、今しかねぇしな…」

ラークがレイスの方へ見遣ると、呼吸が荒くなっており体調が些か悪そうにしていた。

その場から逃れるには最良なのだが、彼は昔は病弱だった為心配で仕方なかった。

「レイス!無理…するなよ…?」

言い終えるとラークは右手で冴の手を握り、レイスの前から姿を消した。

体が動かないレイスは無言でラークの言葉を聞き、姿が見えなくなると苦しそうな表情を浮かべる。

「ダークのバカ……」


僕は君達を殺そうとしたのに…今の僕は君の敵なのに…なんでそういう事言うの…?

どうして…昔と変わらない、不器用に心配してる様な事言うの…!?

君は裏切り者なのに…!

これじゃ君を"裏切り者"としてでなく、"親友"として見ちゃうじゃないか…!!

それとも、僕達は親友のままだと…信じて良いの…?

姉さんが想うあの君だというの…?

君にとって、僕達は…敵……?

それとも、かけがえのない存在…?


「どうして…僕がやらなきゃ、姉さんに殺らせる事になるのに。それなのに、僕は……」


























「ラーク…!ここから出る方法、知ってるの!?」

ラークと冴の2人は急ぎ足で、この謎の空間から抜け出そうとしていた。

「恐らくここはレイスが、結界で作った空間だ。場所そのものは始めの海辺と変わらない」

ラークは何かを感じながら、手繰り寄せる様に道を選んで進んで行く。

彼は珍しく、内心焦っていた。

ここから脱出しなければ、一先ず冴の安全が確保されない。

更にそれを、左手からの出血が生命の危機に至るまでに、しなければならない。

おまけに仮に脱出しても、左手の治療を魔法で行う程の集中力が、彼には残っていなかった。


ちくしょう…早く瀧本をここから出さなきゃいけねぇのに……

やべぇ、さっき以上に目眩がしてきやがった……血を流しすぎたか…


「必ずどこかに現実とこの空間を繋ぐ、歪んだ場所があるはずなんだ…そこをぶっ壊しさえすりゃぁ…」

話を続けていくうちに、ラークの表情が少しずつ白く血の気が引く様に青ざめていく。

それに気付いた冴は、慌てて彼の左手に視線を向けた。

どうやらほったらかしていた様で、背後には血痕が点々と続いていた。
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