☆巡り逢う翼第1章☆

□第5話 蝕みし過去
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「……俺にそれを信じろと?」

キラの顔付きが無表情へと変わった。

冴の冥天―シエル―との酷似さがラークの説明だけでは納得いかず、少しずつ苛立たせていく。

ただ冴の外見だけ似ているのではなく、まるで魂から放たれているオーラの様なものさえ、シエルとそっくりな事にキラは気付いていた。

「…ダーク、俺にとってシエルがどういう存在か……分かってて言っているのか?」

「はいっ…」

ラークは強張った表情のまま答える。

徐々に苛立ちが募り、キラは強く自身の拳を握りしめた。

苛立ちの雰囲気を隠すこともなく、寧ろキラが短気と知っているラークには、十分過ぎるくらい分かるものだった。

互いに沈黙になり再び冴へとキラは視点を移すが、彼女の瞳にキラは映らない。

溢れんばかりの得体の知れない想いを、押さえ込むのに彼女は必死だった。

ラークの方はキラの苛立つ理由に薄々だが気付き納得いくよう、わかる限りの証拠を示していった。

「先ずこいつは悪魔や魔界…魔法の存在を知りません。当然、魔法を使うことも出来ませんし…本人が魔力を持っている事を存じ上げておりません…!」














何…何なのこれは…!?


"…ラ……キラ…"


し、知らない!


あたしはあのキラなんて人知らない…!!


だいたい、さっきからあたしの中で叫ぶ貴女は誰っ…?!


"…ボクは君……?"


何を言って…!?

っていうか、あたしと同じ様な声で勝手に話し掛け――……


……同じ様な、声…?


"……"


じゃぁ、貴女は……あたし?


なら、この触れたい気持ちも、愛しさから来るいろんな願いも……全部あたしの…?


そもそも、愛しさってなんだったっけ?


わからない


あたしの体に何が起こったの…!?


何故貴女は黙るの…!?


これは夢…?


現実…?


それでも、あたしはあたしよ!


…それとも…





あたしは貴女…?





誰か…!!


エリ…!


ラーク…!


もう何が何なのか、わかんないよっ…


助けてっ……!!


冴は酷く怯えた表情で、小刻みに震え続ける。

地にへたり込んだ状態で身を守る様に、両手を交差させて抱え込んだままだ。

ラークは冴を落ち着かせてやりたいのに、キラがいるために身動きがとれずにいた。



 チッ…自分―てめぇ―の不甲斐無さに、反吐が出るぜ…



「…ですから魔王様、ここは一旦退いて頂けませんか?」

少量の血痰を吐き出した後、ラークは剣をもう一度出して構える。

出来る事ならばラークはキラに刃を向けたくなかった。

微かに剣を持つ彼の手が震える。

時折震えから剣が金属音を出す。

もちろん、キラがその音を聞き逃したりはしない。

ところが、次に彼の口から出た言葉は、ラークに向けられたものではなかった。

「おい、そこの女!」

ズボンのポケットに手を突っ込み、キラは冴を睨み据える。

半ばパニック状態の冴だったが、大声で呼ばれ肩を大きくびくつかせた。

少し時間をかけて恐る恐るキラへと視線を向ける。

キラと視線が交わるとこれまでに無い程、あの感情が込み上げ冴はまた彼の名を紡ぐ。

「キ…ラ…」

再び名前を呼ばれキラも僅かに動揺を見せた。
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