☆巡り逢う翼第1章☆
□第6話 暁と黄昏と―暁編―
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呆れ突き刺す様な眼差しを冴に惜しみ無く向ける。
同居人の刺々しい視線に、プリントを取り上げられ慌てていた彼女も、大人しくなるしか他ない。
しゅんとして小さくなる彼女が、愛らしくてしょうがないのは、ドキドキと胸を高めるラークの心。
「一応、前回までは平均点ギリギリいってたんだよ…?」
今回偶々なだけだと言いたげに冴は苦し紛れな言い訳をする。
それを淡泊にラークは一刀両断した。
「物理47点って…俺のいたアカデミーだったら、追試のおまけに大恥もんだぞ?」
現実の結果を突き付ける様に、腰に手を宛がいひらひらと答案用紙を揺らす。
「それは…アカデミーって塾でしょう?塾は進学するつもりで入って勉強するんだもん」
冴の言う"塾"という言葉の意味が分からず、口をへの字にしてラークが首を傾げる。
「…"じゅく"って何だそれ」
あまりにも予想外な質問に、冴は目を丸くして仰天した顔を見せる。
驚愕した表情を向けられたラークは思わず一瞬ぎょっとしてしまう。
「…魔界に塾、無いの!?」
「だから、その"じゅく"ってのが俺にはわかんねーよ」
実の所FLAMEだけでなく様々な国家が存在する魔界では、どんな国家でも殆どが公平で質の高い教育を提供している。
低質な教育の国はせいぜい、血で血を洗う様な状況下にある所くらいだ。
充分過ぎるくらいの良質な為、塾の必要性は非常に低く、恐らくビジネスにも成り立たない。
そのせいか、魔界には"塾"と変換出来る言葉が存在しないのだ。
「えっと、塾っていうのはね…良い学校に行く為に、お金を払って勉強する所…かな」
今の今まで塾のない世界はないと思っていただけに、説明する冴の言葉節々に不安の色が見え隠れする。
答案用紙をテーブルに戻し腕を組ながら、見下ろしてラークは黙って彼女に耳を傾けた。
「なんていうか、学校の勉強だけじゃレベル高い学校とかいけないから…」
「フーン…日本は戦争もないのに、しょぼい教育なんだな」
この言葉は冴をまた驚かせた。
考えてもみれば、第三者の視点で自分の国の印象を聞くのは初めてかもしれない。
背後のベッドに反りながら寄り掛かり、彼女は興味深げに天井を見上げる。
「アハハ!そっかぁ、ラークの住む世界は勉強難しいんだー」
右手を上に伸ばし、未だ見た事のない世界を、輝かす瞳に重ね合わせる。
眼前に映る少女の仕種に、ラークがキョトンとする。
そのままの姿勢で、少し黙っていた冴が突然口を開く。
「あたし、もっと知りたい」
「知りたい?何をだ?」
首を傾げるラークへ、手を下ろしあの煌めかせた瞳を、やや前のめりになって向けた。
無邪気に投げ掛けるそれは、ラークの暗く今も枷となっている過去を、一時でも忘れさせてくれる。
「ラークが住んでた所、ラークが生きて…見て、感じたもの。もっとあたしに教えて?」
表情ではただ目を丸くさせていたラークだったが、内心では自分でも驚く程酷く戸惑っていた。
話すにしてもどこまで話すべきで、どこまで話さざるべきか。
軍や政の世界で生きてきたラークにとって、自分の過去を話す事も生まれて初めて。
少なくとも間違いなく冴は驚くと考えていた。
「……このヒデー点数の2倍の点数を、次のテストで取ったら好きな事から聞かせてやるよ」
突然悪戯な笑みを覗かせたかと思えば、彼の口からついて出たものは冴を面白いくらい青ざめさせた。
「は…えぇ!?」
「単純計算して94点だぞ?今回のがたまたまなら、そんな難しい事じゃねぇだろ?」