☆巡り逢う翼第1章☆
□第7話 暁と黄昏と―黄昏編―
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浮かばせたのは、ラークを遠くに感じさせたあの羨む目付き。
そしてあの時と同じ声色で口を開いた。
「あの時俺が考えていたのは……俺がいた国の事だ」
何の気無しに彼は窓へと目を動かす。
雨戸の閉められた大きめな窓に映るのは、闇夜で暗がる外の景色ではなく祖国に未練を残した己の姿。
「俺の国は西の最果てで…唯一陸地を接する隣の国と昔からえらく仲が悪ぃーんだ」
俺はその国に残された、正統な血を受け継いだ最後の王族。
同時に軍部の全てを統轄する地位に立つ。
本来ならこんな私情染みた行動は、するべきじゃねぇのは分かってる――
「それでも、王子だろうと何だろうと、恋をする権利はあるわ」
突如として、エリが仏頂面でラークの言葉を遮る。
一方、励ましともとれる内容の発言者が、予想外の相手だっただけにラークは驚いた。
目を見開いて呆然としている彼へ、不服そうなまま彼女が続ける。
「当たり前の事を言ったまでよ。だって、私も貴方も今"生きてる"じゃない」
久々に、他人から言われた"生きてる"という言葉は、ラークの今迄の人生で言われる度特に違和感を感じてきたもの。
命のやり取りをする戦場でしか、ラークには実感出来なかった次元の言葉だ。
極限の状態で見出だすのが通常になっていたせいか、本来は異常だという感覚が既に麻痺していたのかもしれない。
「……ハハ、嗚呼…そうか、アハハ…」
改めて気付かされた自身の様に、小さく何度もラークが笑い声を上げる。
吹っ切れた様に何かを噛み締めて、清々しく両頬に笑窪を作る。
ラークの爽やかな微笑みに、エリの胸が高鳴った。
だが、次に出て来たラークの言葉は微笑みとは対称的で、今度はエリの胸をつまらせた。
「俺は恐れ、忌み嫌われていたから…恋愛なんて他人の出来事でしかなかった」
"第一、俺に惚れる女がいなかったし"と、自虐的に付け足して言い放つ。
顔を上げたラークが優しい眼差しでエリを見詰める。
「それにあんたが、瀧本を危険に晒した俺にそんな事言うとはな…」
真っ直ぐに捉えた彼の視線に、彼女の心臓が跳ね上げて脈打った。
気を紛らわす為に、エリは無言で外方を向く。
微笑んだままゆったりとした瞬きをした後、ラークは話しの続きを再開させた。
「要人の俺を蹴落としたいと、目をぎらつかせる奴はごまんといる……」
――今迄はそんな奴等に、足元を掬われまいとしてきた。
そうして過ごす内にいつの間にか、常に気張っていたのかもしれない…。
だから、瀧本といた日々は平穏の一言に尽きた。
銃も剣も、危害を加える様な魔法も要らない日々。
攻撃魔法ばかり使う俺が思うのも矛盾した話だが、俺は国民にもこんな生活環境であって欲しい。
殺し合い戦渦が降り懸かる事の無い国。
俺達魔界には人間界に、嘗て存在した化学兵器や生物兵器の様な、残虐性を極めた兵器は存在しない。
しかし、恐らく今の俺達の心が、それに相当すると思う。
精神を研ぎ澄ませて扱う攻撃魔法なら、人間界でいう兵器に値するのだろう。
そして、人間達からすれば俺達はイレギュラーの塊といえ……
逆に魔界に住む大半の悪魔達からすれば、人間達は退化、若しくは進化が停止した下等種族と言われている。
人間界に行けるのはホントに、極一部だけだからな。
魔王様の御了承も、得られなければならねぇし。
だから偏見が更に誤った定着と認知を促し、結果的に客観的真実に行き着かない。