☆巡り逢う翼第1章☆
□第8話 遠ざかる夜明け・闇夜の来訪
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「魔王様。瀧本をあの部屋に入れておけば、この世界での彼女の命を保証して下さるんですよね?」
先ずは推測される現状の確認を取る。
確認は裏を返せば、暗にラークの重要な前提条件を示していた。
一先ず命の保証をしてくれれば、彼としては次の作戦に移る事も出来る。
「ああ。但し、分かっちゃいると思うが…その期間を具体的に決めるのは俺だ」
キラもラークの意図をよく分かっている様で、了承はするがあくまで主導権は与えない。
そして彼が有言実行タイプであるのを、ラークは身に染みる程よく知っている。
この容赦無い義兄に、大切な者の命を預けざるを得ない現実は、ラークにとってもどかしさを否めない。
とはいえ、自身の中に引き下がるという選択肢もなく、次に本来の狙いとも言える重要な条件を挙げた。
「分かっています。ですが、ならばそこのエイミーを付き添わせて頂きたいです」
真っ直ぐな瞳でいつになく強気なラークに、興味深げなクレスが短く口笛を吹く。
キラの方は威嚇を込めて小さく睨む。
それに怯む事なくラークは話を続けた。
「瀧本は人間とはいえ女です。俺の時と同じでは厳し過ぎるかと思います」
突如として自分の話題に戻り内容から冴も驚くが、何の話も聞いていなかったエイミーも急な提案に同じ反応を見せる。
ラークの読みとしてはこの最初の策は、比較的勝算は高かった。
何故ならエイミー一人いた所で、冴を助けられる訳ではない。
人質を奪還される恐れは無いのだから、キラには何等支障は無いのである。
つまり条件は飲まれ易いと見ていた。
但し、無条件にこれを承諾してくれるとは、到底思えないのも同じ――。
「……好きにしろ。だがならば、こっちもそこの使い魔との連絡を一切禁じる、という条件を出させて貰おうか」
――伊達に義弟の立場で魔王様を見てきてねぇよな
苦笑いがちにそう思った、ラークの読み通りにキラからも条件を出された。
只これも読んでいた通りの条件であった為、こちらとしても他よりか飲み易い。
「はい。彼女をおいて頂けるなら、それは全然構いません」
余裕の微笑みで返したラークの心境は、最初の駆け引きの勝利を確信づいていた。
対して、まさかラークに余裕な表情で返される時が来るとは、夢にも思っていなかったキラは僅かだが不快感から眉間が力む。
小さく溜息をキラが吐けば、クレスが冴の手を引っ張りラークと冴は引き離される。
「ラーク…!」
やや強引な力に、バランスを崩しクレスの方へ体が傾くも、声に合わせて冴の空いた片手はラークへと伸ばされている。
咄嗟にラークも冴の手を取ろうとするが刹那、無表情なキラの指を鳴らした音を合図にラークの体が薄く所々消え出す。
「瀧本っ……」
冴の名前を呼んだのを最後に、スッとラークの姿は消え失せてしまった。
状況が飲み込めない冴は呆然としながらも、ぽつりぽつりとキラに問い呟く。
「ラークに…何を、したの……?」
呼吸の仕方も忘れてしまったかの如く、不規則な呼吸をして立ち尽くしていた。
「何もしていない。人間界に強制的に送致しただけだ」
淡々と返したキラの口ぶりは、氷よりも遥かな冷たさを冴に印象づける。
すっかり気を落とした彼女は何も言わず、只々ラークのいた地面を見詰める。
弄んでいた片手を、もう一度ラークのいた場所に伸ばすが虚しく空を握るだけ。
自然と寂しさが胸に込み上げて来る。