★第壱章 番外編&短編集★

□こんなはずじゃ……
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「デーモン、この子はお前のお姉さんだぞ。ちゃんと挨拶なさい」

「ねえ、さん…?」

首元の服を父親に引っ張られる幼きデーモン。

嫌々としつつも恐る恐る、彼は顔を出す。

明るく光沢のある茶髪が、さらりと覗く様に傾くデーモンの額を擽る。

小さな姉弟の視線が交われば、互いにつぶらな瞳を揺らしていく。

先に口を開いたのは姉でもある、満面の笑みなシエルだった。

「ボクがお姉さんのシエルだ。よろしくね!」

デーモンはそれを聞き、驚きで目を更に大きくさせた。

その瞬間、デーモンはシエルに飛びつく。

「ねえさん…」

彼女の温もりを、堪能するかの如く笑顔で抱き着く。

シエルも最初は目を丸くしていたが、しばらくすると彼女もデーモンを笑顔で抱き返した。

容姿だけでは一見、姉弟とは思えない二人の間に、今ここで絆が確立されたのだ。

彼等の父親は無表情ながらも、心中で安心する。

ただ一つの憂いを除いて。






これが、彼の始まり。

これが、悲しみと憎しみのきっかけ。

後に一、二とあたる重要な秘密。

それと同時に、彼の出生を紐解くには不可欠となる鍵。

何より、誰がこの後の凄惨さを予測出来ただろうか?

とはいえ現実は冷たく残酷で、容赦無く子供の拠り所を奪う。













その後、彼等の父親とシエルの母親は協議を始めていた。

デーモンの実母である母親は出産時に他界し、つまりは彼から母親は継母にあたる。

真実を知っている母親は、時にヒステリックになり喚き散らした。

その真実は、ただ浮気した以上に許し難いものなのだ。

魔界でもあり悪魔である母親にとって、その想いは一入沸き起こる。

しかし、父親からの謝罪の言葉は最後まで無かった。





「シエル姉さん……」

夢見るデーモンは、涙を零しながら呟く。



親達の協議は一先ずケリがついたらしい。

先ず第一に、デーモンの本名・自分達との血縁関係は隠し、血縁関係は全くない養子縁組とする事。

保護した経緯に関しては、軍人でもある父親の任務中に偶発した事件関係の場所で発見された孤児であるとした。

理由は、幼過ぎ証拠的にも関係性が薄く、殺す程の理由は無いとする事にした。

次に表立った会合には、一切出さない事。

そして、最も母親がこだわったのがデーモンに生涯"アルスター"という姓を名乗らせない事。

その他諸々の誓約書に、彼の父親は粛々とサインしていく。

話し終えた頃夜はすっかり更け、デーモンとシエルは二人して既に仲良く眠っていた。

二人の子供の寝顔は穏やかでも、母親からすればデーモンの寝顔は憎たらしくて仕方がない。



それからというもの、シエルがアカデミーにいる時以外は常に2人一緒にいた。

シエルもアカデミーが終わると、真っ先に家路に着く回数も増える。

だが、どんなに仲良くしていても母親から、デーモンとの外出許可は下りなかった。

それどころか、母親は時々デーモンに対して拒絶反応を起こす。

ある時手を伸ばそうとしたデーモンの手を、子供相手とは思えない本気で振り払う。

「近寄らないで!!汚らわしい…!!」

この一言は、未だ真実を知らず理解も出来ない幼いデーモンの心を、深く刔り傷付けた。

子供にとって親、特に母親の重要性は高い。

それだけ、母親の拒絶は酷く子供を傷付ける。

一方そんな母親を、シエルは心配しつつも軽蔑して睨み見ていた。

実母なのだからシエルも愛情はあるのだが、弟への仕打ちがそれ以上に許せなかった。

シエルの近所の大人の悪魔達も、デーモンを侮蔑するような者や、デーモンを見ると敬遠する者もいた。

シエルは後々アカデミー内で知ったのだが、"卑劣な手段でデーモンが養子縁組を手にした"という噂が上流階級に広まっているのだ。

媚びた割に表舞台に出て来ないが故に、尚更悪い尾鰭付いた噂が飛び交っている。

当時のデーモン自身気にしない様にしていたが、全て出来る訳もなく居心地悪さはあった。

殆ど近所の同世代の子供は上流階級の子供ばかりで、勿論例の噂の影響を受けている。
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