★第壱章 番外編&短編集★

□こんなはずじゃ……
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更にデーモンを目立たせたのが、容姿端麗が多い悪魔の中でも非常に珍しい、濁りなき透き通った真紅の瞳。

爽やかに青い髪や白銀の瞳を持つ者は中にはいるが、そんな魔界でも真紅の瞳だけは専ら珍しかった。

そんな中、デーモンにとって本当に受け入れてくれるシエルだけが安らぎの場所だった。


しかし、そのささやかな幸せも長くは続かなかった。









…―数年後――…









とある月明るい休日の夜…就寝前のシエルは、両親に呼び出される。

「なーに?お母さん……ボク眠いよ…」

眠気があるのかシエルは少し虚ろな目を擦る。

母親はそうしたシエルに、視線も向けずに俯いたまま。

「お母さんね、もう限界なの。これ以上堪えられないわ」

シエルは何を指しているのかわからず、ただ首を傾げていた。

父親は依然として黙している。

「お母さんとお父さん…別れる事になったの」

「え……?」

僅か9歳の頭の中は、ぐちゃぐちゃになり、突然の事に状況が全く読めない。

「…離婚よ…」

とどめを刺すかの如く放たれた言葉は、少女の頭の中を一気に真っ白にさせる。

文句の一つも並べ立てられればよいものだが、呆然とした子供にそんな事をする賢さは無い。

放心状態のシエルを残し、それぞれの親達は解散して眠りに就く。

「り、こん…そんな……」

両親の生活が別々となるという事は、自分はどちらかを選ばなくてはならない。

それにシエルは薄々こうなった始まりに気付いていた。

――そう、父親が養子のデーモンを連れて来てから、二人の関係が軋みだしたことに。

そしてそれでの離婚は、父親を選ばなければデーモンとの離別をシエルに示唆する。

翌朝早朝…明けて間もないということもあってか、6歳のデーモンはまだ眠た気だった。

既にシエルの親権は母親に、デーモンの親権は父親に譲渡されることと決められていた。

自身の残酷な予想通りの現実に、シエルはその場に泣き崩れる。

物分かりが良い彼女は、始めから自身に選択権も無かったのは感づいていた。

未知なる力を秘めた利用価値ある自分を、利己的な母親が手放す筈もない事も。

何も知らされていないデーモンはシエルが、瞳いっぱいの涙を零す理由が解らずにいる。

そして幼いデーモンを抱き抱え、彼の父親は語る言葉も残さずシエルの許を離れた。

短期間しか過ごさなかったせいか、現代に於いて二人の関係性を知っている者は、幸か不幸か殆どいない。

その後、彼の父親は隣国BLOODLESS国に亡命し、軍事施設の事務職に就いていた。

敵国からの亡命だった為、父親はいくつかさしてFLAMEに害の及ばぬ機密情報を、BLOODLESS側に提供する。

機密情報の提供が、亡命を認める条件だったから。

父親が仕事中の間デーモンは、同施設内で軍事的訓練を受けていた。

この頃当人としては、シエルから離されたショックから、特に努力を心掛けるもなく淡々と鍛練を積んでいた。

しかし悲しくも、その成長ぶりには目を見張るものがあり、軍上層部及びBLOODLESS国魔王の耳にも届く。

強硬派上層部の一部では「BLOODLESS初の、近頃話題の橙天と対抗出来る力を持つ者の誕生」と悪巧みされていた。

そして数年後、BLOODLESS国魔王はデーモンの力を目の当たりにする。



魔王は3歳の一人娘を連れ、デーモンのいる軍事施設を視察していた。

だが一人娘というのは極秘で、公では男児という扱いにしている。

娘が生まれた後子宝にも恵まれず、男子を授かれなかった為だ。

従業員達は各々の部所でも、魔王が通ると頭を下げる。

魔王も慣れた様子で、適当な微笑みを振り撒く。

「…でして、こちらでは――…」

各所を施設長の説明と共に廻っていると、魔王の目にデーモンの姿が留まった。

「あの子供は?」

「は。あれが例の子供です」

魔王は話には聞いていたが、姿はわからなかったのだ。

しっかり脇を締め、無駄のない身の熟しに、魔王は感嘆の声をあげる。

「ほぉ、あれが例の…"ミズキ"、君はあのお兄さんといなさい」

施設内の残された視察場所は、最高レベルの国家機密にあたる。

その為本来は別場所に預ける予定だったが、急遽ミツキをデーモンに預ける事となった。
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