過去の拍手置き場

□七夕2011
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笹が揺れる。
その細い枝にくくりつけられた無数の願い。
願いもまた、風をうけてそよそよと揺れた。
多すぎる短冊に大きくしなる華奢な笹は、それでも健気に踏み堪えていた。

下校の時、下駄箱を出た軒下に七夕の笹があって、ふと足を止めた。
行事を盛り上げる委員会でもいるらしく、笹を飾って短冊まで律儀に置いてあったのだ。

くくりつけられた願いは人それぞれで、ほとんどはささいな、そしてほほえましい願いだった。

「昌はなにか書いた?」

浩人がいつの間にか隣にいた。
今日はもう帰るらしい。
彼は期待を込めた目で俺をみる。

「まだ、ヒロは?」
「俺? うーん。
いっぱい書きすぎてさぁ。自分でもよくわからないかも」
「じゃあさしずめ、じい様に怒られない程度の成績になれますように、とか」
「まぁ、そんなとこ」

彼は苦笑いした。

「それより昌、早く書きなよ」

気になって帰れないとでも言うようにじっと手元を見られる。

……、すごく書きにくいって。
そう心の中で叫ぶ。

それに、何をお願いすればいいのかわからない。
これ以上何を望めばいいというんだろう。

今だって、たぶん十分に幸せ。
それより上なんて、傲慢で……。
きっとそんな幸せは罰が当たりそうだと思ったんだ。

「あっ……」

ひときわ大きな風が吹いて、短冊がひとつ、ふわりと宙に浮いて遠くへとばされた。
その人にとっては大切な願いなのに。
思わず駆けだして、掴もうとしたけれど、からかうように一歩先へと逃げてしまう。
その先へ、もう一つの手が伸びた。
同じだけど、違う手。

「とれたっ!」

浩人がさっと捕え、俺を見て、少し得意げな顔をした。
はい、と短冊を渡してくれる。

「ありがとう、ヒロ」
「どういたしまして。俺も目の前で飛んでいくのはあまりいい気持ちがしなかったし」
「そうだね……。願いが叶わなくなるみたいで、なんか……悲しいよね」

俺は切れたこよりを綺麗によじり直し、笹にくくりつける。
そして、もとあるべきところに収まった短冊は、また静かに揺れ始めた。


「なんて書いてあるの、それ?」
「えっ……あんまり人の願いって覗きみない方がいいと思うんだけど」
「なんだよー、さっきまで熱心に覗き見てたくせにっ」

「あっ……、それもそうだった」
散々見ていたし、今さらと言われても仕方がない。

「みんなが幸せになれますように、だって」
「ふーん」

浩人は少しつまらなさそうな顔をした。
そして俺なら絶対に書かないけどなぁとぼやいて、他の短冊を見始めた。

その隙に、俺はみんなが幸せになれますようにと短冊を書いた。

浩人はちゃっかりと俺のを見て、がっかりしたみたいだった。
口を文字通りへの字に曲げて、不服そうに睨んだ。

「みんなって誰……?
昌は入ってるの?」
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