過去の拍手置き場
□チョコと双子
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チョコと双子。拍手お礼。
台所のテーブルでペラペラ本をめくる。俺が眺めるのはこげ茶のお菓子。そう、チョコのお菓子。
昔、小さかったころ昌が好きで、大好きで…。
それを成兄に言ったら「大好きな人には2月14日にチョコをあげる」のだと教えてもらった。
けど教えてもらったというより、ふきこまれたというほうが正しい。ただ純粋な気持ちで作り、昌にあげたんだ。
すごく喜んでくれて、渡した俺もすごく嬉しくて。だけど、あれは女が男に渡す日なんだって後になって知った。
騙されたような気がして悔しかったけど、昌が喜んでくれたから次の年もその次の年もついついあげ続けている。
今年もおいしいものを作るぞ! と実はひそかに気合いを入れているわけである。
ただ、問題は…。
「何つくろっか」
向かいに座る当の本人であるわけ。今年は俺も一緒に作ると言いだして、ニコニコと菓子の写真を眺めている。
「生チョコおいしそう」
「でも、今年はガトーショコラのつもりなんだ」
「…そっか、それもいいね」
今年は多めに作ってみんなで食べたい。そのためにはチョコレートの量が少ないけど、カサのあるケーキの方がいい。
一応そのつもりで準備していたから、今回は希望にそえない……。
「昨日買い物はだいたい済ませてきたし。まずは…、材料を量ろうか。
卵が4つ…だから、先に割って黄身と白身に分けよ」
「俺、割ってみたい」
「それじゃお願い。こっちは粉とか量っておくから」
昌ってそもそも卵割れるのかな……。嫌な予感がする。でも、量りもなぁ…。やらせると心配だし。
俺は手早く材料を量り、型の準備や電動泡立て器のとりつけなども先にやっておくことにした。
ーぐちゃぁあ
やっぱりか……。
「あ…、失敗失敗」
照れ笑いでそう告げる昌。手元は笑っても済まされないような状況だった。
あれは割ってない。むしろ握りつぶしている。
「俺がやるから…。昌は粉をふるっておいて」
忘れてはならなかったのは、昌に調理の経験が乏しいこと。嬉々とした笑みに騙されちゃダメだ。
でも、粉をふるうくらいできるはず。本当はなにも手伝ってほしくな……。
「わわわ! うぁ、粉が……ぶ…」
はぁ…、まただ。見てみたいけど見たくない気持ちで彼を見やった。
なぜか、あたり一面粉だらけに。どうやったらこんなことになるんだろう。
「落ち着いて。いったん手を離して止まって!」
「う゛」
タオルを濡らし、粉まみれの顔を拭くとやっとまともに話せるようになったらしい。
「普通にふるってて。そしたら、よくわからないけど、粉が!」
「だから……、なんで縦にするかな。また粉が舞うって、はあ…」
普通に考えたら横なのに。彼が縦にふるうたび、粉が宙に飛んだ。
おかしい…、どう考えてもおかしい。なんで気付かない。
俺が普通のやり方をやってみせると、彼は目を丸くした。
「とりあえず、シャワー浴びてきたら?」
「ぅ……、ほんとにごめん、なさい」