過去の拍手置き場

□ハロウィン(りく)
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「今年こそは……」

去年のハロウィンは浩人に主導権を握られ、変な格好をさせられてしまった。
ショートパンツに膝上の靴下なんて…思い出すだけでも屈辱的!
お返しに浩人をあっと言わせて驚かしてやる。




「ふふ……」

左手にリアルな怪我のペイントを施し、さらに滴るように血糊をつける。

怪我を見慣れたはずの自分でもなかなかグロテスクな仕上がりだ。
これで浩人もどっきり。

俺は彼の部屋の戸を少しだけ静かに開け、そこにそっと手を入れ込んだ。




"Trick or Trea...「ぎゃあぁあああああ!!!!!!」"

叫び声とともに、ばしゃんと彼は飲みさしのジュースを思いっきりドアに向かって投げつけた。

「ひぁっ! な、なにするんだよ!! 冷たい」



ドアが防いでくれたものの、甘いにおいのジュースが上半身にかかってしまった。

「っえ? 昌…なの?」

「ひーろーとぉ!!!
なにが、え?、だよ! いきなりぶっかける奴があるかぁ!」



ペイントは水分に溶け、畳が赤く染まっていく。

「や、ヤバい! 汚したらじい様に怒られる」

「ホントだ! どうしよう。
…って昌、そこにいたらよけいに汚れが広がるじゃん!!!」




咄嗟にもっくんがタオルを持ち出して床に敷く。

「お前らとりあえず、落ち着けよ!
昌、片付けはこっちでやっておくから、おまえは風呂場に行け!」

「へっ……あ、うん」
ちょっと驚かせるだけのつもりが大変なことになってしまった。
こんなはずじゃなかったのに、とがっくりうなだれてシャワーを浴びる。






ため息をつきながら濡れた体を拭いて、あとは服……服…服。
そっか、駆け込んできたから替えの服がないんだった。

しかし、見渡すとちょうど目につくところに服が置いてある。

「なんだ、持ってきてくれたのか……って。 え゛……?」

それは明らかに仮装と呼ばれるような服。
黒いローブのようなものが見えるんだけど…。




「昌ー? 着替えたー?」
弟が呼ぶ。

「普通の服持ってきてよ!」
俺は声を張ってそう返す。

「残念でした。今日はそれを着てもらうから。俺の部屋を血糊まみれにした罰だよ」

「そんなぁ……」

「まさか着るのが嫌でタオル一丁で出てくる……なんてことはないよね、俺は別にそれでもいいけどさ」

「っう……」

それはさすがに恥ずかしくて……できない!

「みんなー、昌が半裸で出てくるってー!!!」

「浩人!!!!!
わかった、着ればいいんだろ! 着れば!!」


「くそぉ……」
悪態をつきながら、俺は再び屈辱的な服に袖を通した。





************





ずしん、ずしんといら立ちをこめて彼は廊下を歩き、居間へとやってきた。
そんなに乱暴に歩いたら、本当に床が抜けてしまいそうだ。
なんたって、この家はボロいんだから……。


「おかえりー」
満面の笑み俺は昌を迎える。

「……」

今年の昌の仮装にと俺が選んだのは魔法使いの弟子をイメージした衣装。
去年ほど露出は多くないんだから、そんなに不機嫌な顔をしないでほしいな。

黒のズボンに白いシャツ。そして、そのシャツには古めかしいひらひらとしたフリルが付いている。

それをすっぽりと覆ってしまう魔法使いの真っ黒なマントは彼には長いようで、ちらりと指先だけを覗かせた。

「ちょっと大きかった?」
「別に」

拗ねて幼く見える昌。
そんな彼に胸元の赤いリボンはよく似合っている。





「はぐっ! にゃ、にゃいふんのさ」

「ハロウィンはお菓子をあげなきゃ、いたずらされちゃうからね」



俺は昌の口に棒のついた大きな飴を押し込んだ。


「ぶぁかぁ! こんはんでゆふさへるとおもうなひょ」

そう言いつつも彼は飴を咥えたまま離さない。


「ハッピーハロウィン。あんな心臓に悪いいたずらは二度としないこと」

「む……」


そのことに関しては反省があるのか、彼は飴を出して「ごめんなさい」と謝った。

「仕方がない、そろそろハロウィンパーティ始めるから、昌も出ること。
そうしたら許してあげる」

ふてくされた顔でコクリと彼は頷いた。


俺としては、昌のいたずらなら本当はなんだって許しちゃうんだけど。

許さないということにさせてもらおうかな。



これは俺からの悪戯。




"Trick or Treat!"


終わり

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