うたかたの幸いをこの手に

□祭に響く歎きの声〜上〜
1ページ/9ページ




文化祭の季節がやってきた。

俺は今日、クラスで決まった出し物と、自分に押し付けられた役割に嘆息した。

「なんで……」

俺なんだ。
裏方がよかったなぁ。
出し物だってもっと楽なのにすればいいのに。

「はぁ……」

思えば、今までまともに学校行事に参加して来なかった。
体調が悪かったし、
不可抗力ではあったものの経験がないのは困ったことだと思う。

一致団結と意気込むクラスメイトの雰囲気についていけなかったことは事実だし、この機会に慣れておきたい。

浩人はこういうのをうまくやるんだろう。
篤史も……。
俺も彼らを見習わないと。

「そうは言ってもなぁ……」
ぶつぶつ独り言を言いながら、重い足取りで家へと帰った。

「ただいまー」

がらっと玄関の引き戸を開ける。
そこには思いもよらぬ人物がいた。

「な、成兄っ!
いつ帰ってきたの?」

成兄は自分の想像と違わぬ驚きようの俺を見て、
満足そうに微笑んだ。

彼は今世も同じく俺の兄。
成親、昌親、俺、浩人の順に4人兄弟だ。
今は会社で働いていて、
立派な世帯持ち。
陰陽の仕事はじい様に頼まれた時だけ手伝っている。

少し離れたところに住んでいて、それでもこんなふうにフラッと訪れるのだ。

「おかえり、昌。
なに、ちょっと仕事が早く終わったのでな。
帰りがけに寄ってみたんだ。
昌親から聞いてはいたけど、おまえが元気そうでホッとしたよ」

彼は俺の頭をくしゃりと撫でた。
そのしぐさが懐かしくて、顔が綻ぶ。




俺達は玄関から居間に場所を移し、成兄の近況を聞いていた。




「……っとまぁ、俺はこんな感じだ。仕事はこのとおりまずまずだし、うちのチビたちも相変わらず元気だ。
昌もたまには顔を見せてやってくれよ」

彼の話しぶりはなんとも楽しそうで、聞いているこちらも嬉しくなってくる。
新しくできた家族をとても大切に思っているのだろう。
俺は成兄のそんなところが大好きだ。



「ところで、もうすぐ文化祭なんだろ?
おまえのクラスは何をやるんだ?
せっかくだから、都合をつけて行きたいんだが」


ピキッ

気が緩んでいたところに
唐突に話題を振られ石化した。

彼はいきなり様子が変わった俺を心配して除き込む。

「えっと……、その……」

歯切れが悪く、うまく言葉にならない。
口ごもる俺を成兄は今年も文化祭に参加出来ないのだと勘違いしたらしい。
彼は曇った空気を払拭するようにからりと笑い、
ちょっと無神経だったかな、ごめん、と謝った。

俺は変な勘違いをさせてしまったことに焦り、早口に訂正した。

「ち、違うんだ。
文化祭には参加するよ。
……でも、出し物がなんというか……。
俺、そういうのよくわかんないけど……」

ぐだぐだになって
頭が混乱する。


「その……、出し物は
メイド・執事喫茶なんだ……」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ