うたかたの幸いをこの手に

□祭に響く歎きの声〜中〜
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自分が昌浩だって知られないようにしたかった。


浩人が傷つくと思ったから。


みんなが浩人に昌浩の面影を重ねているのを知っていたから。


浩人が紅蓮を導く光だから。


でも……、


寂しかった。


昔、自分がいた場所にいれないことが、


ひどく辛くて、苦しかった。


その代わりに浩人がそこにいた。


浩人のことが大好きだった。

大切だった。


幸せを守りたかった。


だから、これでいいのだと思った。


きっと誰も傷つけずに済むと思ったから。


自分さえ我慢すればうまくいくと思ったから。


心を偽り続けた。


だけど、


嘘をつくのが苦手だった。


笑っていても、


心から笑えないときがあった。


楽しいはずのときに


胸が傷んで泣きそうになった。


本当の気持ちが言えなくて、


苦笑いをした。


ごめんと言った。


浩人は優しいから


俺が血を流す度に


一緒に傷ついた。


それでも


優しいから


聞かないでいてくれた。


優しいから


見逃してくれていた。


そのことを


知らなかったわけじゃなかった。


知っていたけど


どうすればいいのかわからなかった。


その優しさにすがって


泡のような


儚い幸せに想いを馳せた。


ずっとこのままでいたい。


それは


あまりにも


身勝手な


願い。
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