うたかたの幸いをこの手に

□祭に響く嘆きの声〜下〜
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学校から出て、今は俺の部屋にいる。
手持ちの符だけでは心許ない、そう昌が言ったからだ。


確かにあいては想像していたよりも手強そうだ。
人を喰うところからして、今まで俺が調伏してきたやつより段違いだというのに、彼に干渉し霊力を奪いとるほどの力……。
神将が付いて来てくれるといえども、不安は否めない。
それに、調伏に慣れていないだろう昌を連れて行くのだから……。


でも、二人でなんとかしようと決めたこと。
しっかりしなくてはと、自分を叱咤した。



なのに……。



「ヒロ、符は?」

ストックがあるでしょ、と彼の目が語っている。

「あ……、うっ、
そ、その……」

そのために帰って着たのだから、聞かれるのは当然。
わかっていた、わかってはいたけど……。
目を泳がせてあらぬ方向を見る俺を彼は剣呑に見つめる。

「もしかして、の話だけど、
これだけ……、とか?」

俺のポケットを指差して目敏く言った。
図星……。

嘘は苦手だ。
どうせ全部顔に出てしまう。
この時ばかりはじい様のタヌキぶりが羨ましいと感じた。
観念して「そうだよ」と肯定する。

彼は真顔で聞いていた。
それが逆に恐ろしい。
右手が動くのが見えた。

鉄拳制裁っ!
そう身構えたが、待っていたものはとてつもなく痛いデコピンだった。

「痛っ!」

世の中にこれ程まで痛いデコピンを放つことができる人間が今までいただろうか……。
後がついていないかとても心配だ。

すぅっと息を吸う昌。
俺はとっさに身構えた。

「俺は情けないよ、ヒロ。
まさか、じい様の後を継ぐ後継者たろうものが符のストックも用意していないなんて……。

あれほど、いつ何があってもいいように万全を保っていろと教えられたはずなのに、こんなありさま。

それもこれも双子の兄である俺がちゃんと言い聞かせておかなかったから。
俺にはできることなんてあんまりないけども、せめて後継であるという自覚ぐらいは持たせておくべきだった。

俺のせいだ……。
ごめんな、ヒロ。
俺のせいで立派な陰陽師になれな………………、って。

な、なに言わせるのさっ!
これは、く、口が勝手に動いただけで……。
別に、じい様の口癖が移ったとかそんなんじゃなくて……」

一人で慌てている昌は懸命に弁解しようとしている。
側にいた俺と物の怪はポカンと口を開けてその様子を見ていた。

「……とにかく、だ。
今から符を書いてたら間に合わない。
それに焦って書いても効果は期待できない。

今回足りない分は俺のを使うこと。
ちなみに、……一枚百円だ」

金を取るのかよと抗議する俺を黙殺して、昌は自分の部屋から持ってきたであろう木箱を机に置いた。
カコンと蓋を開ける。

そこには様々な用途別に分けられた符が綺麗に収まっていた。

「符の威力に問題はないと思う」

「確かに」

物の怪はピラリと一枚取り出して確認した。

後払いでいいからと今回必要そうな符を結構な枚数手渡された。

本当に兄には頭が上がらない。

やっぱり俺は弟なのだ……。
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