過去の拍手置き場

□夏祭り
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 ガラクタの当たるくじや輪投げ、金魚すくい、型抜き…
いろいろあるけど祭りと言えばやっぱりこれだ。

「いらっしゃい! 二人ね。どうぞ」

 飾り棚に乗せられたよくあるぬいぐるみやただのお菓子の詰め合わせがオレンジの明かりですごく魅力的なものに見えた。
赤い射的の提灯がふらりと揺れて、人々を誘い込んでいた。

「射的…、私もやるの」
「やりたくなかった?」

「いいえ」
 やるわ、そう口にする彰奈は満更でもないようで目がはしゃいでるように見えた。
白いウサギのぬいぐるみに照準を定め、きりっと歯を食いしばり、彼女は撃った。

 しかし存外に反動が大きかったらしく、ブレた弾は目的を遂げられず、景品の後ろの壁に虚しく当たった。
あと2発と店主は言い、俺は彼女がすぐに次を構えたので、見ていることにした。
次の弾もやはり外れ、彰奈は悔しそうに唇を噛んだ。
そして一度他のぬいぐるみに銃を向けたが、気に入らなかったらしく再びあのぬいぐるみを狙った。
最後の弾もうまく当たらず側を通り過ぎ、店主は笑顔で残念と言って彼女の銃を受けとった。

 よっぽどあのぬいぐるみが欲しかったのだろうか。
名残惜しそうに彰奈が白いウサギを睨むので、俺もあのぬいぐるみを狙うことにした。
これでもいろいろと討伐してきたし、術を敵に当てるのは得意だった。
動かない獲物なんて楽勝。
俺はここを撃てば倒れるだろうという重心を見定めて撃った。

「うわっ」

 案外反動がくるということは彼女を見てわかっていたはずなのに、同じ轍を踏んだ。
弾はぬいぐるみには当たったもののわずかに重心を外し、ぐらりと傾いたが落ちることはなかった。

「おしいねぇ、お客さん」
「ええ、なってないですね、昌」

 聞き覚えのある声に振り向きけば、よっと片手を上げて挨拶をする二人の兄。
彰奈は小さく頭を下げて二人に挨拶をしている。

「成兄に昌親兄! な、なんでここに!?」

「なぁに近くで祭りがあると聞いてちょっと立ち寄っただけさ。
それよりデートなんてオマセさんだな、昌は」

「兄さん、昌だってもう中学生なんですから。それより」

 二番目の兄は俺から銃を取りしっかりと構えた。
昔、弓を引いていた時のような真剣な形、そして普段の穏やかな物腰とはまるで違う鋭い眼。
狂いなく向けられるその先には、彰奈が狙っていたぬいぐるみがあった。
そこを結ぶ線が見えるかのように迷いなく、確かな構えだった。

「的の重心を見極めるだけでは、ぶれてしまうよ。
自分の重心も見定めないと。特に道具を使うならね」

 術とはコツが違うから、と彼は付け足して射的の銃を俺に返した。
もういちどやってごらんと成兄が肩を叩く。
二人の手は大きくて、大人の手だった。手渡す時の手も、肩を叩いた手も、自分の手の小ささとを比べてしまって…、そんなささいなことで落ち込む自分にため息をついた。
 だけど、こんなことで自信を無くすようじゃもっと情けない。
一度深く息をしてから再びあの白いぬいぐるみに照準を合わせた。
今度はぶれないよう腰を落として、軽く足を開き、2発目を撃った。
弾は外れることなく、どさっと鈍い音を立てて目当てのウサギを撃ち落とした。

店主がガッカリした声でおめでとうと言い、ウサギを俺に手渡した。
それをまた俺は彼女に手渡した。

「あげるよ、彰奈に」
「いいの?」

 きょとんとした顔の彼女はそう聞いた。
彰奈のために取ったんだから、そう俺が言うと兄が横からクスクスと含み笑いをした。
でも、他になんと言えばいいんだろう。
彰奈が欲しがっていたから、あげたいと思った。
そのことをわざわざ他の言葉で言いかえる必要なんてないと思う。
彰奈は照れて受け取ると、ありがとうと微笑んだ。


「あと一発、どうしようか」

 正直なところもう十分楽しんだ。
どうでもいいやと思っていると昌親兄がもらってもいいかと尋ねてきたので、最後の弾を彼に託すことにした。

「なにを撃つの?」
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