過去の拍手置き場

□七夕2011
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「さあ」

だけど、

「だけど、俺はもう十分幸せだから、幸せになりたいって思わないよ。
それに、みんなが幸せだった、それももた俺にとって嬉しいことだし……」

「あーはいはい。もういいって、俺はそういうまどろっこいしいのは苦手なんだ」

もそもそ言い連ねる俺に呆れた顔で応じた彼は、新しい短冊にサッと文字を書きつけた。
それがなんて書いてあるのかもわからないほど素早く、笹のてっぺんへくくりつけた。
笹をしならせてくくり、手を離すとずいぶん高いところにあって読み取ることができなくなった。

「これじゃあ読めないよ。なんて書いたのさ?」
「ないしょ! 読んでもらうつもりがあるならあんなことしないよ」



「さ、帰ろうか」

引かれた手は暑さで少し汗ばんでいた。
暑い人の手と、ひやりとした俺の手。
一瞬冷たさに驚いた彼は軽く目を見開いたけれど、
「なんでもない、行こう」と言って包み込むように俺の手を握り直した。

「うん…」

数歩行って、名残惜しげに笹を振り返る。
うっすらと短冊の文字が見えた気がした。気がしただけだけど。

手を握り返す。

もし、あれが彼の願いなら
もうとっくに叶えられてるんだ。

隣にこの暖かさがあるだけで、幸せなんだから。

人は贅沢だ。

更なる幸いを希う。


幸せか幸せじゃないかなんて、本人が決めること。

おせっかい。

だけど、それも嫌いじゃなくて、
…やわらかい気がした。

それもありかもって思うんだ。

「ありがとう」

浩人は少し困ったように、聞こえないような声で、それが俺の幸せだからとはにかんだ。

自分の幸せのために、相手の幸せを求めるなんてさ。
浩人だって十分にまどろっこしい。

でも、そういうものなのかもしれない。


ふと二人で空を見て、

今夜、綺麗な星空が見られるようにと静かに願った。

おわり
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