過去の拍手置き場

□彼岸のキセツに
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「あきらめ」それはあの花の花言葉らしい。後で図鑑でその花について調べたときに載っていた。
彼の声はそんなあきらめの響きを宿していた。だけど……。

「ヒローーー! 待ってよ! 走らないで!」
「だって早く来たかったから!」
たどり着いた先は赤い海のようなあの花。やっと追いついた彼は息を切らして俺の隣に並ぶ。


「す、すごい…!」
「でしょ?!」
彼は驚いたように感嘆の声をあげた。いつか二人で見に行こう。
俺がそう言ったのを彼は覚えているだろうか?

「また会う日を楽しみに」
「…それって、花言葉だっけ。この花の」
思い出すように彼は言う。
「うん。いろいろ他にもあったけど、この言葉が一番好きだな」

死者の手向けの赤い花。美しくも忌み嫌われることの多い花。
でも、たとえそんな寂しい花だとしても、これから先の希望を持った言葉があるから。

「誰かに会えたのかな。待っていてくれる人たちに」
「……そうかもね」
切なく揺れる花びらを彼はそっと撫でていた。また、優しくて儚いあの笑顔を浮かべている。

「後ろとったり!」
「っわ!!!」
そんな彼を後ろから力いっぱい抱きしめた。

「びっくりした……。どうしたの?」
「別にー、そういう気分だっただけ」

昌…、君は覚えているだろうか。
あの日一緒に見ようといった俺の言葉を。

「暑苦しい! 離れてよ」
「いいじゃん、ちょっとくらい」
「もぉ……」

『また会う日を楽しみに』
待ってるんだ。
何も憂うことなく無邪気で笑っていられた、あの頃の君の笑顔を。
今みたいな寂しい笑い顔じゃなくて、心から笑えるような。

「そろそろ帰ろう。逢魔時だ」

紅い夕焼けに照らされた、紅い花。
そこにいる彼は透き通るように澄んでいた。
このまま透けて溶けてしまいそうで。

「うん、帰ろう」

その手が消えてしまわないように、ひやりとした彼の手をしっかりと握った。

おわり
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