うたかたの幸いをこの手に

□変わらないもの〜前編〜
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「朝よー!
いい加減起きなさい!」

サッとカーテンが開けられ、眩しい朝日が部屋に差し込み、目を閉じていても眩しい光に顔をしかめた。


「ぅん……、
お、起きるから朝からそんなに高い声出すのやめてくれない?
太陰」

寝起きが悪いのは、千年も前から相変わらずだ。

今さら改める気はさらさらないものの、こんなつんざく声を聞くらいなら
ちゃんと起きた方がいいのかもしれない。
太陰の表情は逆光でよく見えないが、
怒っていることくらいはよくわかる。

「だって、昌(あきら)
何回起こしても起きないんだもの。
少しは反省なさい」

「ごめん……。
明日からは気をつけるよ」

俺は乾いた笑みを浮かべ、ベッドから抜け出す。
けれども踏み込んだ足は身体の重さを支えてはくれなかったらしい。

ぐらりと揺れる視界。

うまく力が入らなくて、倒れそうになる体をサッと顔を青くした太陰が支えた。


しゅんとした様子でこちらをのぞき込む彼女。

「わたしこそごめんなさい……。
今日、やっぱり具合悪いの?
学校休む?」

「いや、ただの立ちくらみだから平気。
早く朝ごはん食べに行こう」

なんでもないというように、手をヒラヒラ降って部屋を抜け出そうとした。


「無理をするな。
最近のおまえは体調が悪いと顔に書いてあるようなものだ。
なにかあったのか?」

陰形していた玄武が顕現した。
戸の前で通せんぼしながら問い詰める。

「別に、何にも。
そんな顔してると眉間のしわが消えなくなるって。
とにかく、寝坊したんだから急がないと!
さっさとそこをどいて」

非難がましい目を向け、しぶしぶ玄武は退いた。

俺は廊下へ出てゆっくり息を整えた。


もうすぐその時が訪れる……。
そう言い聞かせて。
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