うたかたの幸いをこの手に

□変わらないもの〜前編〜
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少し急ぎ足で校門へと向かう。

「おっはよー!」

そこには篤史(あつし)がいた。

「「おはよう」」

意識せずともキレイにハモってしまい、ちょっと気恥ずかしい。
浩人のほう盗み見ると彼もやってしまったというように困った顔をしていた。

篤史は浩人と同じクラスで、珂神比古の生まれ変わり。

浩人に早く思い出してくれと懇願しているが、前世なんて関係なしに、この二人は友達になっていたと思う。

俺はどうしても一人分長い記憶のせいで無邪気にはいられない。
でも、篤史が気さくに話しかけてくれるから、一緒にいたいって思えるんだ……。

昔から変わらない。


篤史にだって記憶があるのだから、もう少し落ち着いてもいいのではないかと思うけれど……。
それは、ココロのうちに閉まっておこう。
あえて明るく振舞おうとしているのかもしれないし。


じっとりとした視線が向けられて、
思わず身がすくむ。

「な、なんだよ。篤史」

「昌、ちゃんと食べてきた?
顔色が悪いのはいつもだけど、最近輪をかけて悪そうだから」

本日、4人目。

気を遣ってくれるのはありがたいけれど、ここまでくるとなんだか……。

「ばっちり食べた。浩人が証人だ」

と、胸を張って答えてやる。

「まぁ、一応食べてたよ」

仕方なく、浩人が同意した。

「食べててこれなら、なおさら心配だな」

小脇をつついて篤史がからから笑う。

便乗して浩人も笑って、そのことに俺は少しむくれて不機嫌な顔をした。



ーーキーンコーン
   カーンコーンーー

「予鈴だ」

俺たちはそれぞれの教室へ歩を進めた。

ちらっと浩人についていた物の怪がこちらに視線を送った。

夕焼け色の瞳が目に焼き付いて離れない。



もう、彼を”もっくん”と呼ぶ者はいない。
浩人は本性の時も、物の怪の時も紅蓮と呼ぶ。
今、二つ名で呼ぶのはじい様と浩人だけ。
ダメと言われたわけじゃないけど、呼んじゃいけない気がして。

別に、彼が俺を邪険にしているわけじゃない。

けど、その溝が辛くて押し潰されそうになる。


”もっくん”俺はもう、君の光になってやれない。

それでも、もう一度昔みたいに触れてその名を呼びたいと思ってしまうんだ。
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