うたかたの幸いをこの手に

□変わらないもの〜前編〜
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彼を初めてみたとき、すぐに昌浩だと思った。双子でもどちらがそうなのかなんて分かってしまう。

私の中のずっと奥の方で何かがざわつくのを感じた。
懐かしさが込み上げて、心が温かくなる。


本当はずっと声をかけたくて……。
でも、勇気がなくて……。

私のこと、覚えているかしら。
赤の他人を見るような目を向けられることを想像するだけで、いつも私の勇気はくじけてしまった。

もう一度、あの声で彰子と呼ばれたい。
何度もそう願った。

だけど結局、一年生の時はクラスが違ったこともあって、まともに声がかけられなかった。

今年は同じクラスになれたからチャンスだとは思っていたけど……。

彼は体調を崩しがちで、よく学校を休んでいた。
いつも一人で、少し浮いていた。
そんな彼を遠めに見ているだけの自分。

勇気がなくて今の今までズルズルときてしまった。

時々、遠くを見ていた目がとても寂しそうで、見ているのがつらかった。
独りの彼。

彼のそばに、どうして誰もいないの?
どうして、遠ざけようとするの?


帰り道、一緒に帰ろうって言った時も
それが精一杯で……。

張りつめたような横顔が心配だった。
言いたいことがたくさんあるはずなのに、うまく言葉にならない。

何度も喉まで出かかった言葉を飲み込んでしまった。

それに、痛そうな顔をしていた。

胸のうちに秘めてるだけじゃ、きっと解決なんてしないのに……。


本当は話してほしい、頼りにしてほしい。


千年前、そんなことを言ったら、
彼は困った顔をして

ーー彰子はそばにいるだけでいいんだよーー

と優しく微笑んでいた。


だから、せめてそばに居たい。
なにもできないけれど、居させてほしいの。

他のどんな言葉も、うまく言えなかったけれど、それだけはどうしても伝えたかった。



昌浩……。
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