うたかたの幸いをこの手に

□双子と服とテスト事情
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息苦しそうにしている物の怪と気持ち良さそうに寝息をたてる昌をよそに

俺はあれから1時間ほど頑張って勉強していた。


「んっ……」
起き出して昌は小さく伸びをして俺の方を見た。

「ごめん……、寝てた。
ベッドも勝手に使ってごめん」

しゅんとする昌に笑いかけ、気にしなくていいと言った。

「それより、今日はどこか出かけるの?
洋服着てるからちょっと驚いたよ」

彼は思い出したように時計を見た。

「よかったー。ちゃんと間に合うよ。3時から友達と図書館で試験勉強するんだ」

ほっとしたように言うけれど、もしかしてこの服のまま行くのだろうか?
疑問をそのまま口にすると、困ったように答えた。

「だって、俺いつも和服だし……。
さすがに友達に会うのにそれだとまずいかなぁっと思ってさ。

一応、引っ張り出して着てみたんだけど……、やっぱり変だよね。」


昌は確かに和服ばっかり着ている。

時代錯誤な感じは否めないが、彼の場合妙にしっくりきて見ているだけで心が和む。
洋服の着こなしは最低だが、和服姿はすごくいい。
黒髪がよく映えて、明治の書生さんみたいだ。


「いつもの和服でいいんじゃない?
しかたないじゃん。
なんなら代わりに俺の服でも着る?」

俺はそれでも一向に構わないのだが、
いつも彼は遠慮する。
だが、この日ばかりは違ったようだ。

しばらく、うーん
と唸っていたが観念して

「貸してください」

と改まって頼みこんできた。


学校では制服を着ているから洋服に不自由な思いをすることはないだろう。
俺はタンスの中から昌に似合いそうなものを出し、着せる。

俺はなんとか普通にオシャレな服装なった様子を見て満足げに笑った。

「これでよし」

「ありがとう」

そう言って昌ははにかんだ。

「そういえばその友達ってどんな子?
同じクラスなの?」

そう聞くと彼は少し顔を赤くして曖昧にうなずいた。

「うん……、まぁ……。
浩人、提出物終わってなさそうだし、
忙しいでしょ?
その友達はとっくに終わってるみたいだから、一緒に最終確認しようって」


ん? 最終確認?
一緒にってことは昌も随分余裕があるんだなぁ。
彼はそんな俺を見透かすように言う。

「えっと……。俺も提出物はもう終わってるんだ。
だから心配しなくていいよ。
というか、明日試験だから普通は終わってておかしくないと思うんだけど」

困ったように笑う昌は気まずい空気を察してドアに手をかけた。


「じゃあ、そろそろ行かなきゃ。
ありがとう」


逃げるように立ち去る彼を呆然と見送った。
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