うたかたの幸いをこの手に

□双子と服とテスト事情
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ぎこちなくなりながらも
そのまま図書館を出て歩き出す。



「昌の私服、初めて見たわ」
平然を取り戻すように
彼女が話題をふった。

「そっか。でも、これ……、弟の浩人のなんだ。
俺、普段着が着物で……。
普通の服がまともになかったから、貸してもらったんだ」

服の胸元をつまみながら言う。

「そうなの?
普通の服もよく似合ってるけど、着物姿も見てみたかったわね」

彰奈はにこやかに笑った。
彼女の服装は白っぽい綺麗なワンピースだった。
俺がそれを褒めると恥ずかしいそうに目を細めた。
そしてなにか思い付いたように目を輝かせた。

「そうだわ。
今度会うときは二人で着物を着ましょう。
あの頃みたいな服装はちょっと無理だけど」

その提案を無下にすることは出来ないが、かなり目立ってしまうんじゃないのか?

「俺も狩衣は無理だな。
どちらかと言えば、明治っぽいと思う。
とはいえ、かなり目立つよ。
俺は慣れてるからいいけど……」


じゃあ決まりねっと言って喜ぶ彼女はそんなことに頓着しないようだった。

一人よりは二人。
そういう意味では心強いかなと思った。
何より洋服選びで難儀せずに済むのがありがたかった。





彼女の家ついた。
予想はしてたけどかなり大きい……。

「また、明日」

手を振り入って行く彰奈を見送った。


また、明日……か。

そんなたわいない小さな幸せが心を暖かくする。

家路を急ぎながら、
俺は綻ぶ顔をそのままに喜びを噛み締めた。
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