うたかたの幸いをこの手に
□祭に響く歎きの声〜中〜
3ページ/10ページ
朝が来くる……。
結局、昨日は一睡もしなかった。
出来なかった。
ドアの前に膝を抱えて座り込んだままじっとしていた。
学校に行かなきゃなぁと思うけれども、
浩人と顔を合わせるのが辛かった。
そのまま時間だけが過ぎた。
いつもならやって来る神将も来なかった。
来たけど、隠形したままかける言葉を失って気配を消した。
いつまでもこうしているわけにもいかない。
わかっていたけども踏ん切りがつかなくて、時計の針の音を聞いていた。
単調なリズムにイライラした。
同じことを堂々巡りのように考えてしまう自分の頭の中と酷似して、嫌なのだ。
それでも、のろのろと立ち上がってドアノブを握る。
こんな体でも、さすがにお腹は空くし、寝不足だ。
ふらふらと部屋を出て、出かける準備をして、家を出た。
母親がひどく心配したけど、引き止めないでくれたことがありがたかった。
その時に二つ、お弁当の包みが手渡された……。
「浩人が忘れていったの。
届けてやってくれるわよね?」
なんにも知らない母はそう言った。
断るわけにもいかなくて、素直に受け取る。
避けていてもしかたがないのだ。
すごく……、いや、かなり気まずいけど、向き合わなくては。
あんな態度をとってしまったせいで、きっと傷ついてしまっただろうから……。
***********
「あの……、ヒロは、御巫浩人はどこですか?」
弟は教室にいなかった。
ちょうど、お昼休みが始まった頃で食堂に行ってしまったのかもしれない。
間に合わなかったかな、と落ち込みながら、でもどこかホッとしたのも確かだった。
「浩人はトイレに行ってるだけだよ。すぐ戻ってくると思う。席はそこだから」
窓際の机が指された。
「ありがとう」
へらっと笑って窓際に向かう。
文化祭の準備は進んでいるようだ。
お化け屋敷っぽい装飾がそれを物語っている。
自分のクラスもそろそろ大詰めだ。
遅刻なんかしてしまったことが申し訳なかった。
出来ることなんてあんまりないんだけど、雑用を手伝うだけでも頑張りたかったのだ。
浩人の席はよく日の当たる窓際で、後ろの方にあった。
そういえばこの前、席替えのくじ引きでラッキーな席が当たったと言っていた。
日が当たりすぎるのは残念だけど、居眠りしてもバレにくいらしい。