うたかたの幸いをこの手に
□ありのままの季節で
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「でも……」
思わず飛びついた俺は昌の小さく呟く声に力を緩めた。
「どう、したの?」
「もし、ここにエアコンがついたらこうやってヒロの隣で寝ることもできないし、部屋に入ることもないだろうなぁって思ってさ。
俺、冷房がすごく苦手なんだ」
目を伏せてしんみりと言う彼……。
「大丈夫だよ。
昌が入る時には切るから」
「切っても、冷房の冷たさはしばらく残っているだろうし、行きたくないなあ。
だって……、俺はヒロと違って、頑丈にできていないんだよ」
昌の体のことを忘れていた。
同じ双子でありながら、俺はほとんど風邪も引かないし、元気だけが取り柄だと言われるほどに健康だ。
反対に、彼はついこの間までしばしば学校を休むような体の弱い兄だった。
やっと、普通に暮らせるようになったのに……。
逆戻りなんて絶対に嫌だ。
「そ、それはダメっ!
昌が元気なのが一番なんだから。」
「……、ごめん。
けど、夏の間中ヒロの部屋に行けないのは淋しいよね。
そう思ってるのは俺だけ……、なのかな」
彼は上目遣いにちらっとこちらに目線を送り、またすぐに目を伏せた。
「昌だけじゃないよ、俺も淋しいし……。
だいたい俺が昌の部屋に遊びに行けばいいんじゃん。
今までよりもたくさん行くよ」
そうすれば会えるんだから問題ない、はず……。
「そうだけど、俺はヒロの部屋で一緒にいたいんだ。
せっかく具合がよくなったんだし、遊びに行きたくて。
前は行きたくても叶わなかったから……。
いつも、来てもらうばかり。
そういうのって嫌なんだ」
彼の肩は震え、目元もいつもよりも潤んで見えた。
そんなことを考えて俺の部屋に来ていたなんて、知らなかった。
俺は浅慮だった……。
「そっかぁ……。
気づいてあげられなくて、俺こそごめん。
俺が悪かったんだ。
エアコンはいらないよ。
だって昌と一緒にいれなきゃ意味ないもん」
もう一度ギュッと抱きしめた。
暑さというよりも暖かさを感じる。
「ホントにいいの?
ヒロが困るんだったら……」
「いぃーの、もう決めたんだから!」
「勉強もちゃんとする?
俺のせいで成績が奮わないようなら、じい様に会わせる顔がないよ……」
「するする!
ずごく張り切って頑張っちゃうから、心配無用!」
「陰陽の勉強もサボらない?」
「サボらない!
苦手な占いもしっかりやるよ」
「暑くても本当に平気?」
「へーき、平気」
「謄蛇のこと暑苦しいって言わない?」
「言わない、言わない」
んんっ? あれ?
なんで紅蓮が……?
「じゃあ、ヒロ、約束」
笑顔でそう言って、彼は小指を差し出した。
そのままの流れで俺は指切りをする。
……?
ちょっと疑ってはみたものの、昌は俺の背に腕を回してきた。
今度は逆に抱きしめられる格好になる。
「あ、あきら……?」
「ヒロ……、大好きだよ」
綺麗で曇りのない瞳が俺を引き付ける。
どこまでも透き通って嘘のない純粋な眼……。
やっぱり昌が俺をはめるなんてことはない。
少しでも彼を疑ったことを後悔した。
俺も昌のことが……。