BOOK
□スノー・マジック
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「寒いね〜蛭魔君」
「冬だからな」
私の少し前を少し早や足で歩く金髪の彼氏。
「空気カラカラでお肌乾燥しちゃう」
「冬だからな」
会話してるのに会話にしてくれない辛口な彼氏。
「蛭魔君は寒くないの?」
「寒いに決まってんだろ。暑いって言ったら暖かくなんのかよ?無駄な事言いたくねえだけだ」
うう〜ん、なんとゆう三段論法で私を黙らせる彼氏。
「…蛭魔君、冷たい…」
「冬と関係ねえよ」
ごもっとも。四季を通じて変わらない、そのつれない態度の彼氏。
受験の為に、英文法のテキストを買うので蛭魔君に付き合ってもらって大きな書店にやってきた。
私がどのテキストにするか悩んでいる間、彼はフランス語で書かれている学術書みたいなのを読んでいた。もう既に私は置いてかれているみたいで寂しくなるよ。
外に出ると、追い打ちをかけるように厚い灰色の雲が私の頭上を覆う。
溜め息をつくとほわんと白い霧が儚く消える。
蛭魔君とは別の大学を受ける。今のようにもう逢うのは無理だよね。そしたら……
そしたら……もしかしてこれが…最後のデート?
他の友達のカップルのようにラブラブな仲じゃないし、連絡だって頻繁じゃない……
白い息がまるでこの恋の結末を予測しているように霧のように音も無く消える。
「………」
蛭魔君が何気なく腕をさすっていた。あ、あそこ、折った場所だよね。寒くて天候悪くなると、やっぱり痛いのかな。
「痛むの?」
「…いや…」
それきりさするのを止めてしまった。私、余計な事言ったかな…
北風が一層強くなったので思わず身を縮めてしまう私の前で不意に蛭魔君が立ち止まる。
見れば手袋を出していた。QBだからね、手は大事だもの。
「ほらよ」
「え?」
渡されたのは左手の手袋。どうやら貸してくれるらしい。
「右手寒い…」
「チッ、だからこうすんだろ」
蛭魔君の左手が私の右手を握ってブレザーのポケットにいれられてしまった。
「こうすりゃ寒くねえだろ。もう寒い寒い言うな」
「……うん」
少し指先が冷たい蛭魔君の手。でも二人の体温で気持ちのいい温かさに。
「あのな……」
「ん?何?」
蛭魔君はやっぱり私を見ない。だけど知ってる。ずっと先だけを見続ける瞳は、私だけに少し、そう、ほんの少しだけ優しい藍色を向けてくれるのを。
「春になっても夏になっても秋になっても…また冬がきても…こうすりゃいいんだろ?」
「…そうなの?いいの?」
「あ?なんで疑問符が付く?お前、俺の女だろうが。ったく、大学違うからって別れるとでも思ったのかよ?」
「………」
ズバリそうでしょう!な気分になる。何も言えずに俯くと、上から蛭魔君の笑い声。
「ケケっ、使える女にはまだ程遠いが、見込みはあんだ。余計な事考えずに俺の手ぇ握ってろ」
「う、うん」
蛭魔君の手がギュッと私の手を握る。その力強さに何故か安心した。
「腕……心配すんな。あんがとよ」
「うん…」
返事をするのが、同じ速度で歩くのが、泣かないようにするのが精一杯で……
とうとう白い粉雪が、私達の上から舞い落ちてきた。
はらはらと舞い散る雪に願ったよ。
二人がもっと寄り添えるようにと……
END
2011/1/15(2/7改)
※Memoから加筆修正して移動。名前変換無しで申し訳ありませんが、読んで下さってありがとうございました。