BOOK
□愛・wish
1ページ/1ページ
愛・wish
今日は携帯を鳴らさなかった。だから葉柱は迎えに来なかった。
どうせ繋がったとしても、アイツはまだ今頃賊学連中に囲まれて動けないんだろうし。
携帯を開いても葉柱からのメールや着信は無く……
「風呂入って寝るか」
気分が乗らず、バスタブに入るのが億劫でシャワーだけにして速攻で風呂から出ると、リビングには何故か葉柱が居て、俺を見るなり怒り出した。
「ま〜た、ちゃんと髪拭かねえで出てきて!風邪ひくっつうの!」
「わっ!よせ、葉柱!」
有無を言わさず、葉柱が俺からバスタオルを奪い取り、頭をスッポリ被せて力任せにゴシゴシ拭くので、俺はぐらんぐらんと揺さぶられた。
拭かれるタオルの隙間から見えたのは、不思議な事に葉柱の嬉しそうな顔だった。
「葉柱?」
「蛭魔、今日俺を呼ばなかったのは、俺が誕生日で舎弟達が離さないの知ってたからだろ?」
「……だったら何だよ」
「なあ、おめでとうって言ってくれよ」
「はあ?他の連中に、耳にタコが出来そうなくらい言われてきただろうが!」
「俺は蛭魔から聞きてえの。知り合い100人のおめでとうより、お前のおめでとうの方がずっと聞きてえよ。だから呼ばれもしねえのに会いにきたんだぜ」
タオルを被らされていて良かった。
俺からの言葉を期待している葉柱に、どんな顔しておめでとうなんて言えばいいのか、考えただけで恥ずかしいっつうの!冗談じゃねえ。
けれど奴は待ってる。子犬…いや、ちっちぇカメレオンみてぇに目をくりくりさせて俺を見て、その言葉を待っている。
「チッ!面倒くせえ。……おめでとう!オラ、文句ねえだろ?」
「ありがとう。蛭魔も誕生日おめでとう」
「あ?ちょっと待て。俺は今日誕生日じゃねえ!」
タオルをどかして葉柱を睨み付けるが、それでも嬉しそうな表情は変わらない。
「蛭魔の誕生日、俺知らねえし、教えてくんねえじゃん?だから俺、決めたんだよ。俺の誕生日に祝おうってよ」
「……そうかよ。でも残念だな、今日でもないし、ましてや教える気もねえよ」
「構わねえさ。残り364日、毎日おめでとうって言うから」
「…は?ケケケッ!馬っ鹿じゃねえの?」
葉柱の言葉に呆れたけれど、こみ上げてくる何かを隠すように精一杯笑い飛ばしてみせた。でもそんなのはきっと徒労に終わるだろう。
「毎日言うって事は、これからもずっと一緒だって事だよ」
「ケッ、勝手に言ってろ」
誰かが誰かを想う日に、幸せを願う言葉を口にする事を許されているなら、例え叶わぬ願いであっても伝えたい。
願わくば……
死ぬまでテメェに俺の傍に居て欲しい…
なんてな、言わなくても分かれよな。
俺の気持ちを知ってか知らずか、葉柱はただ優しく笑いやがる。
それが妙に癪に障ったから、いきなり葉柱を引き寄せて奴の耳たぶをかぷんと噛んでやった。
「いでっ!」
「ケケケッ!happy birthday my darling!」
END
2011/1/25(3/1改)
※ルイヒル「PEEKABOO」シリーズ
Memoに書いた葉柱誕生日記念を加筆修正。
蛭魔の誕生日は葉柱だけ知ってりゃいいよ。でも蛭魔は出し惜しみしちゃうんだよ。縛りつけとく為にね♪