BOOK
□青春には空と虹があう
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LHRの始まりを知らせるベルに、呼ばれるように皆教室に戻ってくる。その中に混じって黒木もふらりと帰ってきた。
「お〜、黒木、どこ行ってたん?」
「ん〜?野暮用だ」
よっこらしょと自分の席に座る黒木。けれどその隣の十文字が立ち上がり、何を思ったのかいきなり黒木の胸ぐらを掴む。
「テメっ!何だよっ」
「おい黒木……お前、煙草吸ったんかよ?」
「何?おい、黒木!お前抜け駆けすんなっ」
週ジャンの「トリコ」の話に夢中になっていた戸叶が、思わず顔を上げて二人を見た。
「はぁ?ざけんじゃねえぞ十文字!吸うわきゃねえだろがっ」
「嘘つくんじゃねえ!お前…残り香が服についてんだよ」
「クンクン…あ、マジだ!こりゃラッキーストライクだな。黒木、洋モクに変えたんか?」
呑気な戸叶は、犬のようにクンクンと鼻を鳴らして黒木の服の匂いを嗅いでいる。
「はぁ?馬鹿かテメェら!俺が一人で吸ったとでも言うのかよ!あぁ?匂いがすんだけで疑うのかよ!」
「……違うって言うのか?」
「……チッ!もういいっ!胸クソわりぃ!」
十文字の腕を振り解き、黒木は周りの机を蹴り飛ばしながら教室を出て行った。
「やっぱり此処か」
不良によく似合う場所の定番は屋上。黒木は大の字に寝そべりっていたが、わざわざ追ってきた十文字と戸叶をジロリと下から睨む。
「……ンだよ…」
「わりぃ……セナの奴から話し聞いた…」
「何で俺らに言わねえんだ?水臭ぇっての」
「………」
黒木とセナは理科準備室に呼び出されていた。物理の教師に、先日のテストでの点数があまりに良いのでカンニングを疑われたからだ。
禁煙の張り紙が霞むくらいに曇る部屋で、疑いを晴らすべく説明したが、全く相手にもされない。
しかも、こんな点数はおかしいと、はなから信じ込んでいる教師に、黒木は怒りで震える拳を必死で抑え、今回のテスト範囲は部活の先輩方から解読法を教えてもらいながら学習したと説明した。
にも関わらず教師は眉を寄せ、どうにも信じられないような顔を崩さなかったが、今回は多目に見てやるからと言われてやっと解放されたのだ。
モン太の教室に寄っていたセナは教室に戻る途中で、怒り狂う黒木の後ろ姿を見て慌てて十文字達に説明をしたのだった。
「あの物理のセンコーは一年の時から気に入らなかったけどよ、トガと俺は化学取ってからな……疑って悪かった」
「もう気にしてねぇ…」
「でもよ、黒木よく耐えたな。昔のお前ならぜってえ殴ってたぜ」
「はあ?何だよトガ!俺そんなに短気じゃねえよ!」
いつの間にか三人の間は和み、十文字と戸叶も黒木と一緒に寝転がった。
秋を思わせる程に高い空を見て、十文字は懐かしい体験を思い出す。
「空……あん時と同じだな…」
「「はああ?空?」」
十文字の独り言のような言葉に、黒木と戸叶は見上げたがいつもと変わらない空だった。
「アメリカの…荒野…忘れちまったか?」
「ああ…。デスマーチの時のか」
あの時も今と同じように寝っ転がっていた。
お互いの感情と拳をぶつけ合ったあの日……
「もう一年は経つんだぜ?早え〜よな」
「そ〜だな黒木。煙草も結局あれから吸ってねえし」
「だろ?飽きっぽくてナンも長続きしねえ俺らにしたらスゴくね?なあ、トガ?」
「だよな〜。校長から表彰状貰ってもいいくらいだぜ」
「あ〜でも俺要らねえ。そんなの俺ららしくねえよ」
一斉に笑い声をあげる彼らに、LHRが終わるベルが聞こえた。
「おっし!部活行くぞオラァ!」
勢いよく起きた黒木の後に、満足げな顔の十文字が続く。
ズボンのゴミをはらいながら、戸叶は遠くの空に、この時期には珍しい大きな虹がかかっているのを見た。
「あの荒野で見たのも綺麗だったな。……あれ?虹って…5色だっけ?いや6…」
戸叶が普段使わない頭で考えていたが、黒木達の急かす声で考えるのをやめた。どうせ十文字が知っているのだから。
END
2011/8/24
※アニメ32話では、デスマーチから逃亡した黒木と戸叶。説得しに追いかける十文字。
原作になかったシーンですが、この時の十文字は格好良かった!
サイト一周年の記念にUPする予定だったのに、ひねりが欲しくてほっといたけど、やはり無理でした(泣)
読んで下さってありがとうございます。