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□秘密
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好きなことは秘密だった。


「ねぇ健治」

私のすぐ後ろの席で何かを必死にノートへ書きこんでいた健治は、慌ててノートを閉じて顔を上げた。

「お前いきなり後ろ向くなよ」

私はうわずった声で非難する健治を無視し、改めて彼の顔を見つめた。

「健治って好きな人には好きってアピールするほう?」

「はあ?」

「いやなんとなくさ」

いきなり何を言い出すのかと、彼は私の顔を凝視してから軽く笑った。

放課後の教室は私と健治しかいなく、夕日がオレンジ色に染めあげる。

「おう。俺は積極的だからな」

彼らしい自信たっぷりな答えにあきれた。
でも積極的だったことなんてあったっけ?

「お前は?」

健治はさっきのノートに目を落とし、窓に目をやった。
横顔がオレンジ色に染まる。
本当に何を書いていたんだろう。

「バレないようにっていつもケンカしてた」

「中学生かよ。いや小学生か?」

そう言って健治は、小さいころから変わらない笑顔で振り向いた。

…その顔で私を見ないでほしい。
また優しくなれないじゃんか。

「…だってさ、好きってバレると負けた気がするじゃん」

「そりゃ事実なんだからしょうがないだろ。勝ち負けじゃねぇよ」

「…そうだけど」

健治は細く息を吐くと、例えばお前は、と私の顔を覗き込んだ。

「好きなやつと二人っきりになれてもこの調子なのか?」

健治の目に私が写っていた。

はたから見れば私たちは恋人同士に見えたりするのだろうか。

「…もうちょっと優しいよ」

目をそらした私を一瞬淋しげに見た後
ちょっとじゃだめだよお前、とまたあの笑顔を見せた。


結局ノートは謎のままだ。


end..


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