長編小説
□赤き咎人 W
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「いったぁ!!?」
『!』
怒りにまかせて彼女を傷付けてしまった!
ピカは茫然と、再び尻もちをついた少女を見つめた。
一応手加減はしていたものの、電撃を受けたイエローは涙目になっている。
ピカは耳を垂れてうなだれた。
歩みは遅くても、彼女は自分のために旅に出てくれたのだ。
それなのに自分は恩を仇で返すようなことをしてしまった……
これでもし「旅をやめる」と言われてしまえば、レッドを救うことも出来なくなる。
自分の行動の浅はかさにピカは泣きたくなった。
また、イエローもピカの電撃をくらったことでピカの焦りに気づき、反省していた。
きっと自分の家で荷物を準備していた時も、早く出発したくてうずうずしていたのだろう。
それを隠して明るく振る舞っていたのは、きっと自分を気遣ってのことだ。
滲んできた涙は痛みのせいではなく、ピカに無理をさせてしまっていた自分の不甲斐なさを呪ったから。
しかしイエローは涙をぬぐって立ち上がった。
この旅はどんなに苦しくてもあきらめはしない。
戦えるだけの力を持たない自分が、レッドのためにできる唯一のことだから。
イエローは握っていた欠片をポケットにしまうと、空いた手でうなだれているピカの前足を取って、精一杯の笑顔を作る。
「ごめんね、ピカ。私……無神経だったね」
首を横に振るピカを抱き上げて、瓦礫の山をよじ登り、頂上から一気に滑り降りる。
ピカを地面におろすと、先ほど自分が投げだした鞄を肩にかけ、不安げにこちらの様子を窺っているピカの方に向き直った。
「いこうか、ピカ。もう寄り道はしないように気を付けるから!」
「……!」
顔をパッと明るくして、ピカはイエローの足もとに駆け寄る。
……がしかし、茂みから聞こえるガサガサという音に立ち止まり、後ろを振り返った。
今のトキワの森は決して平和な所ではない。
R団によって放された、凶暴なポケモン達……大部分のポケモン達は協会によって捕獲されていたが、それを逃れた一部のポケモンは未だ森をうろついている。
ピカはイエローを背に庇うようにして攻撃態勢をとり、イエローも物音に気付いてコラッタの入ったボールを握りしめた。
ひときわ茂みが大きく揺れ、イエローとピカの間に緊張が走る。
そして……
「なんだ、まだこんな所にいたのか」
現れたのは、竿を持ち釣り人の格好をした、一人の中年男性だった。
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