長編小説

□赤き咎人 W
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突然現れた、見知らぬ男。
その森の中にいるにはあまりに不自然ないでたちに、ピカはうっかり緊張を解いてしまった。


「お、おじさん!?」
『ピ!?』
「おう、久しぶりだな、イエロー!」


男はのしのしと歩いてくると、イエローの頭をいささか乱暴にわしわしと撫でる。


「ヒデノリおじさん……どうしてここに?」
「いや、お前がいきなり『旅に出る』って連絡よこすから、心配になって来てみたんだが……そいつは?」


いきなり知らない人間が現れてぼうっとしていたピカを指し、釣り人の男――ヒデノリはイエローの顔を覗き込む。


「この子は『ピカ』。今はおやが不在で私が預かっているんだけど……」


複雑な事情を説明できなくて、あいまいな表現で言葉を濁すイエロー。
その困ったような表情を見て、ヒデノリは眉をひそめた。


「今回の旅は、”そいつ”が理由なのか」
「……」


俯くイエローに、男はため息を吐く。


「あのな、イエロー。お前はまだ11才にもなっていない子どもだ。そんなお前が一人で行って、その間何事もないと本気で思ってはいないだろう?」
「……」


イエローを諭す様子の男に、ピカは不安を覚える。
この先は、自分独りで進まなければならないのだろうか。


「なぁ?」
「……それでも、私は行かなければいけないんです」
「……イエロー」
「私は、ピカと一緒に行きます!」


顔をあげたイエローは、今まで見たことがないような強い光を宿した瞳でヒデノリを見つめてきた。
その強い意志に、止めても無駄と悟ったヒデノリは再びため息をつく。


「まいったな、本気なのか……」
「すみません……。でも、かならず帰ってきます」


叔父に逆らったことに負い目を感じているのか、イエローはヒデノリに背を向けてその場から駆け出そうとした。
しかし。


「待て!」
「!」


無視して行くこともできず、イエローは足を止めて振り返った。
一緒に駆け出そうとしていたピカの、不安が混じった視線を受けながら、イエローは近づいてくる叔父をその場で待った。


「こいつを、連れて行きな」
「……!!」


手渡されたのは、一つのモンスターボールだった。
中からは二つの頭を持った、見たことのないポケモンがイエローを見上げている。


「『ドードー』っつうポケモンだ。足が速いから、ノロいお前にはぴったりだろ」
「おじさん……」


感動して泣きそうになっているイエローに照れたのか、ヒデノリはどこからか麦わら帽子を取り出して、イエローの顔を隠すようにかぶせる。


「女の子が一人旅ってのも危ないからな……こいつでも被っとけ」


大人用なのか、少しサイズが大きくつばも広かったが、イエローは帽子のつばを大事そうに掴むと、頭から落ちないようにポニーテールを隠してから、深くかぶりなおした。


「ありがとう、おじさん。それじゃ……いってきます」
「おお、…気を付けてな」


手を振る叔父の目に心配そうな色が浮かんでいる。

イエローは受け取ったばかりのドードーをボールから出して、ピカをその背に乗せてから自分も慎重にまたがった。


(絶対に……無事で帰ってくるから!)



視線だけでヒデノリに別れを告げると、イエローはドードーを走らせ、トキワの森を駆けて行った。





ピカと一緒なら、きっと大丈夫。

仲直りしたばかりの”友達”とドードーの上で笑顔を交わしながら、イエローは遠い存在になってしまったレッドの事を思い浮かべていた。










ピカと彼が笑い合える未来を、きっと取り戻してみせる。

イエローは固く心に誓った。






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