籠国風土記

□温かい手
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──あの後、なかなか寝付けなくて、結局朝日が昇るのを見て、意識がなくなった。

今まで朝は自分から起きていたのに、樹が珍しく朝ごはんを一緒に食べられる日に限って、起きれなかった。

結局、朝ごはんを一緒に食べる事ができたのだが、問題は樹に優しく起こされた事だ。

きっと、いつもこんな風に朝寝坊してると思われたに違いない。

弁解しようとも思ったが、それよりも昨夜のことを相談したかった。

今朝の朝寝坊も、元はと言えば昨夜の出来事が原因だから、ついでに寝坊の言い訳も出来て一石二鳥だと、勇んで朝ごはんを食べたが、よくよく考えてみれば、あの綺麗な男の人に口止めをされていた。

これでは、相談が出来ないどころか、朝寝坊の言い訳も出来ない。

そう気づいて、別の案を試行錯誤しているうちに、樹はさっさと食事をすませ、さっさと自室にこもってしまった。

そんな今朝の様子を思い出しながら、ガッカリと肩を落としていると、店先が妙ににぎやかなのにふと気がついた。

そう言えば…と、辺りを見渡すと、昼間はほぼ一日中傍にいるくっつき虫のような薫がいなかった。

どこにいったのだろうか…?

そう思ったものの、薫よりも店先が気になったえみは、そっと暖簾の隙間から外を盗み見た。

すると店先では、えみのくっつき虫と、昨日知り合った少年が何やら言い合っている。

何か、面倒臭そうだな…

と、直感的に悟ったえみは、見つからないようそっと顔を店の中に仕舞った瞬間、

「えみ!」

と少年に見つかってしまった。

しまった!と思いながらも再度、顔を出すと、「何で顔を出したんですか!?」と言わんばかりの薫と、なぜだか無駄に笑顔が眩しい泉、そしてその後ろに含み笑いを浮かべた清秀が立っていた。

「えみ!今のところ出掛ける用事はないんだろう?だったら、団子食いに行こうぜ!」

何とも一方的な泉の提案を断ろうと口を開いた瞬間、

「「行くぅーー!」」

と、返事をしたのは、しかめっ面の薫でも、含み笑いを浮かべた清秀でもない。

なぜかギャラリーの中にいた、一太と三太だった。
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