籠国風土記

□籠の中
2ページ/8ページ

町並みを抜けると、長い竹林が続いた。

整備された道幅は広く、静かな場所にもかかわらず行き交う人は多い。

その竹林を抜けると、広い草原が現れた。

「ほら、あそこ。」

そう言って樹が指さした場所に、大きな木が枝を大きく広げて天高く立っていた。

「…大楠?」
「そう、りょうが言ってただろう?」

光ヶ丘の大楠。
確かにそう言っていた。

そこは不思議な場所だった。

大楠を中心に500m…いや、もっと広く草原が広がっていたが、大楠に近づくにつれ、その草の丈が低くなっていくのだ。

「この場所は
 自然とこんな風に
 草花が生えてくるんだ。」

大楠の根本に近づくと、根本周辺は草一本生えていなかった。

「不思議な事にあそこから中には
 誰も入れないんだ。」

言われてみれば、大楠の周りに人がいるものの、柵があるわけでもないのに、土の部分には誰も足を踏み入れていなかった。

「試してみる?」

樹の提案に乗って、大楠に近づいた。

大楠に近づけば近づくほど、何か大きな力を感じる。

大楠から発せられる引力のような物。

それに反発する強い力。

そして自分の中から湧き上がるような不思議な力の感覚。

色々な力がそこにはあるような気がした。

草と土との境目にゆっくりと右足を差し出してみると、一瞬風が足の上を走ったように感じた。

眉をしかめながらも、そのまま土に足をおろそうとすると、それ以上足が下がらなくなった。

「何?」

樹を見上げて、今起こっている超常現象に戸惑っていると、

「不思議でしょ?」

と一言。

「あーやが言ってた事覚えてる?」

足を引き抜き、フラフラと樹にしがみつくと、樹の声が上から降ってきた。

「何の事?」
「大楠がきらきら光るって。」

そう言えば、バスの中でそんな事を言っていた…

「7月7日を中心に1週間、
 この大楠が自ら光りを発するんだ。
 あと1ヶ月もすれば、見られるよ。」

1ヶ月…?

「今日は7月8日じゃないの…?」

私が気を失った日は7月7日。

自分の誕生日間違えるはずがない。

「そうか、16歳になったって
 言ってたもんね…
 向こうの祠まで歩こうか。」

私の体を起こし、樹はまた私の手を引いて歩き出した。

樹が向かう先を見ると、小さな鳥居と神社のような建物があった。

鳥居をくぐり、祠に付くまで樹は無言だった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ