籠国風土記
□籠の中
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町並みを抜けると、長い竹林が続いた。
整備された道幅は広く、静かな場所にもかかわらず行き交う人は多い。
その竹林を抜けると、広い草原が現れた。
「ほら、あそこ。」
そう言って樹が指さした場所に、大きな木が枝を大きく広げて天高く立っていた。
「…大楠?」
「そう、りょうが言ってただろう?」
光ヶ丘の大楠。
確かにそう言っていた。
そこは不思議な場所だった。
大楠を中心に500m…いや、もっと広く草原が広がっていたが、大楠に近づくにつれ、その草の丈が低くなっていくのだ。
「この場所は
自然とこんな風に
草花が生えてくるんだ。」
大楠の根本に近づくと、根本周辺は草一本生えていなかった。
「不思議な事にあそこから中には
誰も入れないんだ。」
言われてみれば、大楠の周りに人がいるものの、柵があるわけでもないのに、土の部分には誰も足を踏み入れていなかった。
「試してみる?」
樹の提案に乗って、大楠に近づいた。
大楠に近づけば近づくほど、何か大きな力を感じる。
大楠から発せられる引力のような物。
それに反発する強い力。
そして自分の中から湧き上がるような不思議な力の感覚。
色々な力がそこにはあるような気がした。
草と土との境目にゆっくりと右足を差し出してみると、一瞬風が足の上を走ったように感じた。
眉をしかめながらも、そのまま土に足をおろそうとすると、それ以上足が下がらなくなった。
「何?」
樹を見上げて、今起こっている超常現象に戸惑っていると、
「不思議でしょ?」
と一言。
「あーやが言ってた事覚えてる?」
足を引き抜き、フラフラと樹にしがみつくと、樹の声が上から降ってきた。
「何の事?」
「大楠がきらきら光るって。」
そう言えば、バスの中でそんな事を言っていた…
「7月7日を中心に1週間、
この大楠が自ら光りを発するんだ。
あと1ヶ月もすれば、見られるよ。」
1ヶ月…?
「今日は7月8日じゃないの…?」
私が気を失った日は7月7日。
自分の誕生日間違えるはずがない。
「そうか、16歳になったって
言ってたもんね…
向こうの祠まで歩こうか。」
私の体を起こし、樹はまた私の手を引いて歩き出した。
樹が向かう先を見ると、小さな鳥居と神社のような建物があった。
鳥居をくぐり、祠に付くまで樹は無言だった。