籠国風土記

□争いの火種
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「あのバカは?」

ひんやりとした薄暗い部屋に負けないほど冷えた優太の声が響く。

「無事国境を越えましたー。」
「こら次郎!組頭になんつー口の利き方だ!」
「武蔵も口悪いー!」

そんな事もお構いなしに、幼い次郎の明るい声が響くとすぐさま、それをたしなめる武蔵の罵声が轟く。

もともと、抜けている奴だとは思ったが、あんな大事なものを落としていくなんて、阿呆の極みだろう…

そう思うと、呆れてため息が出た。

「口の利き方なんて好きにしろ。
 それよりこれから会合だ。
 用がないならさっさと任務に戻れ。」

座ってうるさく言い合いをしていた次郎を追い出そうとすると、次郎が座ったまま一歩近づいてきた。

「夕霧一家の幹部が池旗屋の主人と会ってたって。」

近づいてきた次郎が、思わぬ情報を持ってきた。

「総一か?」

そう問うと、次郎は小さく頷いた。

「お前も顔を見たのか?」
「ううん、僕が会えたのは登馬込の手前だったし。」
「…登馬込?」

登馬込は、城と弦の国の関所との間にある小さな宿町だ。

関所に着いたなら、手形をなくしたことに気づいて戻ってくるはずの総一がなぜそんな場所にいたんだろうか?

「夕霧の幹部が池旗屋と分かれた後、峰山老中の側近と会ってたらしくて。」
「峰山…?」
「総一さん、その側近と顔見知りらしくて、深追いすると危険だと思って逃げようとしたら、樹さんと会ったって。」
「樹と?それで登馬込か…」

樹は総一の正体を知らない。

樹には総一の身分を偽って教えている…だから、弦の国との国境に向かったのか…

「それより、池旗屋と峰山老中が気になりますね。」
「呉服屋って言っても、赤池ほど儲かっていない貧乏呉服屋と独裁老中って、何か結びつかないんだけどなぁ…」
「だから、お前はそんな口をきくなと言っているだろう!」

結びつかない…?

「口の利き方はどうでもいいと言ってるだろう!
 もういい、この件は誰にも漏らすな。
 身内にもだ。いいな?」

そう声を低くして言うと、二人は表情を硬くして頷いた。
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