月 夜 妖
□天狗屋敷
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月が高く輝く夜。
星たちは、その神々しさに光を弱め、夕方降った雨の雫が時折、キラキラと輝く。
静かな夜にもかかわらず、懸命に空を飛ぶ二つの影があった。
「無理だ、彦太坊。
このままじゃ追いつかれる!」
「あきらめるな!
あと少しで結界に入る。
そうすれば奴も追って来られない!」
そう言った彦太坊がいっそう力強く羽を羽ばたかせると、隣を何か細長い影が横切った。
かと思うと、左羽に強い痛みが走る。
「彦太坊!」
「来るな弥山っ!」
突然失速した彦太坊に慌てて駆け寄った弥山(みさん)だが、彦太坊の静止も空しく黒い影に突然覆われてしまった。
「うわぁぁーー!!」
彦太坊の耳に弥山の叫び声が届く。
「弥山!」
「来るな!
オレはもう無理だ!お前だけでも早く行け!」
黒い影に覆われた弥山の姿が徐々に見えなくなる。
弥山を助けたい。
だが、あまりにもこの影は強すぎる。
「行くんだ!彦太坊っ!」
その声を最後に、弥山の声が途絶えた。