月 夜 妖

□てのひらの虹
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『知っているかい?
 虹を捕まえた
 少年がいるんだよ。』

小さい頃、父さんが
そんなことを言った。

出会った頃には、
もう既に父さんは
寝たきりになっていた。

僕と父さんは70歳、
正確には68歳の
歳の差がある。

血のつながりはない。

後妻に入った
母さんの連れ子が
僕だった。

僕が10歳の時のことだ。

母さんと父さんとの
歳の差は50歳。

夫婦というよりも、
親子…
いや、祖父と孫か…。

でもきっと、
人に言われなければ
それが普通だと
僕は思い続けただろう。

実際には、
普通だと思っている。

他人が
嘆き哀れむほどのことは、
何もない。

父さんは、
ただ母さんを愛して、
母さんは、
ただ父さんを愛している。

お互いに口で
言っているわけではない。

それは
日々同じ時を過ごしていると
自然と伝わってくるものだ。

「虹を捕まえることなんて
 できないよ。」

幼い僕は父にそう言った。

すると父さんは、
顔の前で
手を合わせ目を瞑った。
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