月 夜 妖

□もう一つの星
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うちの庭は
手入れが行き届いており、
四季によってその姿を変える。

というのも、
父も母も庭いじりが大好きで
それが結婚する決め手になったと、
母が嬉しそうに語るくらいだ。

そんな庭で、弟と一緒に
ボール遊びをしていた時だった。

「すみません。」

そう声をかけたのは、
見知らぬ人だった。

夏なのに、
黒いロングコートに黒い帽子。
靴まで黒い。
コートの襟を立てて、
帽子も深くかぶっているから
顔がよく見えなかった。

声からして男の人だろう。

「なに?」

弟よりも先に、僕が答えた。
弟は僕の後ろに隠れて
様子をうかがっている。

「この辺りに、
星はありませんか?」
「星?」

優しくて紳士的な声とは裏腹に、
おかしな尋ね事をされた。

「そう、星です。」
「星は夜にならないと
 見えないよ。」

僕の後ろに隠れていた弟が、
僕にしがみつきながら
顔だけを横からヒョコとだして
答えた。

それを聞いた男の人は、

「では、改めて
 今晩うかがわせて頂きます。」

そう言って丁寧に頭を下げ、
帰っていった。

奇妙な話だけど、
その時僕はその人に
懐かしさを覚えた。

どこかであったことのある、
もしくは、
これから出会うであろう誰かに。

でも、
そのことは誰にも言わなかった。

「今晩また来るって・・・。」

まだしがみついたままの弟が、
不安げに言った。

「そうだね。」
「お兄ちゃん怖くないの?」
「別に。」
「ふーん…、
 じゃあ、僕も怖くない!」

立ち直りの早い弟だと
少しあきれた。
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