月 夜 妖

□魂玉
1ページ/15ページ

6月に入ってから
雨がやまない。

今日も闇の住人たちが
元気に騒いでいる真夜中頃から
静かに降り続いている。

最近、家付近に異常なほど
妖しが集まって来ている。

雨が降っていて
ジメジメしているから。
という理由もあるだろうけど、
一番の理由は僕の目の前で
手の平ほどの奇妙な生き物を
両手で大事そうに
ぎゅっと抱きしめて脅えている
この弟にある。

「また連れてきたな!」
「いいじゃない、
 別に何もしないんだから!」

両手にぎゅっと
さらに力を込めて言った。

抱きかかえられている
緑の毛むくじゃらの生き物が
可哀想に苦しんでいる。

「何もしないだって!?
 冗談じゃないよ!
 この目の下のクマは、
 誰のせいだと思ってるんだ!」
「知らないよ。
 どうせ夜遅くまで
 ゲームしてたんでしょ!」

冗談じゃない!!

昼間こそ力が
押さえられているから
可愛いものだけど、
夜中のあの騒ぎよう…

あれでグースカ寝ていられる
お前が凄いよ。

怒りを抑えるために
軽くため息をついた。

「元いた場所に返してくるか、
 隆盛寺の住職さんの所にでも
 連れて行ってこいよ!」

そう言われた弟は、
ムスッとした顔を
出来る限り力を入れて
さらにムスッとさせた。

「にいちゃん、ズルイよ。
 にいちゃんには、
 オバケの仲間がいるのに
 僕だけダメなんて…。」
「いないよ、そんなの。」
「じゃあ、
 時々屋根の上にいる
 あの狐のお面をつけた
 男の子は何なの?」
「……知らないよ。」

今まで弟から
視線を外さなかったのだが、
一瞬だけ目を
反らしてしまった。

目ざとくも弟は
その瞬間を見逃さなかった。

「にいちゃんの嘘つき!!
 フンだっ、いいもんねっ!」

そう言葉を投げ捨てて、
弟はあの変な生き物を抱えたまま
玄関の方に走っていった。

少しもしないうちに、
玄関が激しく閉まる音がした。

「あの毛むくじゃら、
 夜になると
 めちゃくちゃデカくなるんだよ…
 声も体も態度も……。」

それを知らない弟が
何だか羨ましく思えた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ