月 夜 妖

□水童子と泥丸
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真夜中。

まだ生き生きと
星が輝いている。

その姿に恐れをなした
月の姿はない。

何か奇妙な静けさを
感じさせる新月の夜。

新月橋と呼ばれる橋の下を
薄く流れる冷たい水夜川。

そこにきらきらと
星がうつり、
さっきまで寝息を立てていた
秋の虫や鳥達が急に音を消す。

しばらくその光景に
心を奪われていると、
ちょうど橋の真ん中辺りの
川面がすぅーっと
浮かび上がる。

そして、
瞬きをするかしないかのうちに
人の姿を型どる…。



「で?」
「で?・って。
 信じてないだろ?
 オレ見たんだよ!」
「興味ないよ。
 だいたい、
 ケンタは見えないって
 言ってただろ。」
「でも、
 一昨日は見えたんだよ。
 嘘じゃないって!」
「人だったんじゃない?
 川の奥の方から
 歩いて来たとか。」
「あんな時間に
 人が歩いているワケ
 ないだろ!」
「じゃあ、
 お前は何してたんだよ。」
「あ…、いやっ……
 オレは、その…」

月曜の朝っぱらから、
あまり好きではない話を
降られた千里の様子は
不機嫌そのものだった。

千里がこの手の話を
好きではないと
知ってた上で、
相談をしたのだが、
あまり深い所まで
突っ込んでもらいたくないのが
正直な気持ちだった。

「まぁ、いいや。
 僕には関係のないことだし。」
「千里ぃ〜、そう言うなよぉ〜。」
「しつこいなぁ…。
 あっ、皆代!
 ちょっと来て。」

ちょうど登校して来た
皆代保(ミナヨ タモツ)を見つけた千里は、
なぜか彼を呼んだ。

保は、
美しく艶やかな黒髪の生えた頭を
軽くかきながら
こちらに眠たげに向かって来た。

「何か用?」

急に呼ばれた事を
不思議に思っているような
顔つきだ。

そう思うのも
無理はないのだが、
その声に憤りは感じられなく
意外とあっさりしていた。

オレか千里ならば、
少々……いや、
なかなかの不愉快な態度を
とってしまうだろう。

保のそういう姿を見て
意味なく感心してしまった。
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