清晨-セイシン-のマリス

□始まりの星
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不思議な夜だった。

空に浮かぶ月はなく、ただ天には闇がひろがる。

朔の夜だから当然といえば、当然。

不思議なのはそれではなかった。


「…星が読めない。」


一晩中微動だにしない北極星を心臓に見立て、形を成す国母神マリーの星座以外、肉眼でその存在を確かめる事ができないのだ。


「こんな事、始めてだ…」


そう呟く幼い少年の姿もまた闇に紛れて見えない。

不安げに天を見つめる少年の目にふと、異変が映った。


「…これは……」


剣を持ち、戦いを意味するマリー神の右手と、矛を持ち、国を守らんとする左手の星の近くにそれぞれ、小さな星が輝き出したのだ。

右手の星は煌々と、左手の星はひっそりと、それぞれ息をするかのようにふわりと何度か瞬いた。

驚いたのはそれだけでない。その星々を中心に、次第に瞬く星の数が増え、いつしか少年を優しく照らしていたのだ。

何かを暗示しているのは、まだ幼かった少年にもわかった。

ただそれが『良い兆し』なのか『悪い兆し』なのか…少年には理解できない。


「何かが起こる…」


少年に理解できたのは、それだけだった。



その日、砂漠の国『サンディア』で二つの命が誕生する。

一人は大理石や金銀など豪華に彩られた王宮で。

もう一人は、カラカラに乾いた砂漠の貧しい町で。

ほぼ同じ頃、元気な産声を上げた。




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