清晨-セイシン-のマリス
□始まりの星
1ページ/7ページ
不思議な夜だった。
空に浮かぶ月はなく、ただ天には闇がひろがる。
朔の夜だから当然といえば、当然。
不思議なのはそれではなかった。
「…星が読めない。」
一晩中微動だにしない北極星を心臓に見立て、形を成す国母神マリーの星座以外、肉眼でその存在を確かめる事ができないのだ。
「こんな事、始めてだ…」
そう呟く幼い少年の姿もまた闇に紛れて見えない。
不安げに天を見つめる少年の目にふと、異変が映った。
「…これは……」
剣を持ち、戦いを意味するマリー神の右手と、矛を持ち、国を守らんとする左手の星の近くにそれぞれ、小さな星が輝き出したのだ。
右手の星は煌々と、左手の星はひっそりと、それぞれ息をするかのようにふわりと何度か瞬いた。
驚いたのはそれだけでない。その星々を中心に、次第に瞬く星の数が増え、いつしか少年を優しく照らしていたのだ。
何かを暗示しているのは、まだ幼かった少年にもわかった。
ただそれが『良い兆し』なのか『悪い兆し』なのか…少年には理解できない。
「何かが起こる…」
少年に理解できたのは、それだけだった。
その日、砂漠の国『サンディア』で二つの命が誕生する。
一人は大理石や金銀など豪華に彩られた王宮で。
もう一人は、カラカラに乾いた砂漠の貧しい町で。
ほぼ同じ頃、元気な産声を上げた。
.